D.I.Y.出版日誌

連載第221回: だれの目にもとまらぬ幸福

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
10.21Mon

だれの目にもとまらぬ幸福

自分のほかに 13 人の端末に配信されたと考えると妙な気分がするつい先日までその本はおれの頭にしかなかったのだ指先から HHKB ヘMac から偉大なるモール様へそしてだれかの頭に流れ込む価格を 480 円にした書いて出版する実践者佐藤亜紀さんは一律 500 円の値付けをされている偉大なる先達がワンコインであるその価格から 20 円安いだけではおこがましいかもしれない百円安くすべきか迷った紹介ページの見栄えがいいので高いほうにした昨日は日記が 26 人に閲覧された普段の五倍だ流入経路を調べたら戸田さんに twitter で紹介していただいていたおかげで三冊売れた戸田さんにはそれだけの力があるtwitter では興味ぶかいことに Facebook ページでは逆だ彼女の記事や本を共有すると意外なことにフォロワーが減るその 85 人は本に関心のあるユーザを対象に広告を出して集客した読書と出版の情報を期待していいねしてくれたのだその期待と異なる印象を与えたのだろう人格 OverDrive を複数の著者で運用する案は必ずしもよくないのかもしれないあるいは逆に外部の参加者が少なすぎて奇異に感じさせたのだろうか去年逆さの月を簡易ブログ機能を使って連載したところ100 人いたフォロワーがごっそり減ったそれで今年はサイトに連載機能を実装しFacebook ページは告知のみに使ったその告知でフォロワーが減らなかったのは投稿時間がいつも深夜だったせいかもしれないもし一件でも購入に繋げられていれば今後も Facebook ページをつづける価値はある関心は出版そのものにあってその先は重要ではないとはいえどうせ読まれるなら数多く売れるよりも質のいい客に読まれたいたびたび広告を試した印象では Facebook では電子版よりも印刷版のほうがコンバージョンしやすい明日にでも版下を作成するつもりだかつてインディ本の質を向上させブランディングするためのインフラをつくろうとしたFacebook の過去投稿によればちょうど三年前だまず商業と同等の品質をもちかつ独創的なものとしてインディ出版を定義づける次に著者を選定しロールモデルを確立するその上でブランドとしてのインディの認知を拡大する計画だったしかし賛同者のやる気が醒めぬうちに動く必要もあり大勢を巻き込んで見切り発車したもののいやがらせや脅迫に遭って断念した質のほうに着手もせぬうちから認知拡大のツールに手を出したのも失策だったが何よりまずかったのはやろうとしていることを他人に理解できるように説明できなかったことだ説明するための前提のそのまた前提すらだれとも共有できなかった噛み砕いて説明するよりも実際に手を動かすほうが向いているしそもそも当時の理想に魅力を感じなくなった目下の関心事は自己肯定感だ何かをやれたという実感を得たいそのための手立てとして以前の試みを再利用しようとしているただし技能や知恵の貸し借りによる品質向上という案だけはひとりではどうにもならない揉めずに他者の助力を得るには揉めぬだけの金を払うことだ今回の本も企画段階では校正校閲を業者に発注するつもりだった経済状態を見なおしたところ不可能だとわかったロックンロールにゃ金かかると泉谷しげるが歌ったのを思い出す出版も同様だおまえら募金しろとも彼は歌ったわけだが実情は逆にこちらが支援されたいほどだFacebook に国境なき医師団やロヒンギャ難民の記事が流れてくるたびに心苦しく感じるしかし本が売れてほしいとまでは思わないとんちんかんで悪意のある読まれ方をされるくらいならこれまで同様だれの目にもとまらぬほうがいい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。