杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第223回: だれの目にもとまらぬ幸福

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
10.21Mon

だれの目にもとまらぬ幸福

自分のほかに13人の端末に配信されたと考えると妙な気分がする。つい先日までその本はおれの頭にしかなかったのだ。指先からHHKBヘ、Macから偉大なるモール様へ。そしてだれかの頭に流れ込む。価格を480円にした。書いて出版する実践者、佐藤亜紀さんは一律500円の値付けをされている。偉大なる先達がワンコインである。その価格から20円安いだけではおこがましいかもしれない。百円安くすべきか迷った。紹介ページの見栄えがいいので高いほうにした。昨日は日記が26人に閲覧された。普段の五倍だ。流入経路を調べたら戸田さんにtwitterで紹介していただいていた。おかげで三冊売れた。戸田さんにはそれだけの力がある。twitterでは。興味ぶかいことにFacebookページでは逆だ。彼女の記事や本を共有すると意外なことにフォロワーが減る。その85人は本に関心のあるユーザを対象に広告を出して集客した。読書と出版の情報を期待して「いいね」してくれたのだ。その期待と異なる印象を与えたのだろう。人格OverDriveを複数の著者で運用する案は必ずしもよくないのかもしれない。あるいは逆に外部の参加者が少なすぎて奇異に感じさせたのだろうか。去年『逆さの月』を簡易ブログ機能を使って「連載」したところ、100人いたフォロワーがごっそり減った。それで今年はサイトに連載機能を実装し、Facebookページは告知のみに使った。その告知でフォロワーが減らなかったのは投稿時間がいつも深夜だったせいかもしれない。もし一件でも購入に繋げられていれば今後もFacebookページをつづける価値はある。関心は出版そのものにあってその先は重要ではないとはいえ、どうせ読まれるなら数多く売れるよりも質のいい客に読まれたい。たびたび広告を試した印象ではFacebookでは電子版よりも印刷版のほうがコンバージョンしやすい。明日にでも版下を作成するつもりだ。かつてインディ本の質を向上させブランディングするためのインフラをつくろうとした。Facebookの過去投稿によればちょうど三年前だ。まず商業と同等の品質をもち、かつ独創的なものとしてインディ出版を定義づける。次に著者を選定しロールモデルを確立する。その上でブランドとしてのインディの認知を拡大する計画だった。しかし賛同者のやる気が醒めぬうちに動く必要もあり、大勢を巻き込んで見切り発車したものの、いやがらせや脅迫に遭って断念した。質のほうに着手もせぬうちから認知拡大のツールに手を出したのも失策だったが、何よりまずかったのはやろうとしていることを他人に理解できるように説明できなかったことだ。説明するための前提のそのまた前提すらだれとも共有できなかった。噛み砕いて説明するよりも実際に手を動かすほうが向いているし、そもそも当時の理想に魅力を感じなくなった。目下の関心事は自己肯定感だ。何かをやれたという実感を得たい。そのための手立てとして以前の試みを再利用しようとしている。ただし技能や知恵の貸し借りによる品質向上、という案だけはひとりではどうにもならない。揉めずに他者の助力を得るには揉めぬだけの金を払うことだ。今回の本も企画段階では校正校閲を業者に発注するつもりだった。経済状態を見なおしたところ不可能だとわかった。ロックンロールにゃ金かかる、と泉谷しげるが歌ったのを思い出す。出版も同様だ。おまえら募金しろとも彼は歌ったわけだが、実情は逆にこちらが支援されたいほどだ。Facebookに国境なき医師団やロヒンギャ難民の記事が流れてくるたびに心苦しく感じる。しかし本が売れてほしいとまでは思わない。とんちんかんで悪意のある読まれ方をされるくらいなら、これまで同様だれの目にもとまらぬほうがいい。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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