ブコウスキーはいろんなひとが訳しているけれどやっぱり中川さんのが好きだ。 ただ彼は BUK をブクと訳すんだよな。 反吐みたいなビュークですよ奥さん、 と照れくさそうに話す BUK の映像を見たことがあるんだが⋯⋯。 ブコウスキーが書く話の大半は ZINE やリトルプレスの界隈についてだ。 それが読者層だったからなのだろう。 そういう書き方、 出版、 読み方が現代の日本にもあっていいはずだ。 なかったのは日本語を打ち出して印刷するには文字数が多すぎて金がかかるからだ。 WordPress や Mastodon はそうしたものを実現する手段となりうるように思うのだけれど、 そういえば DTP ってどうだったんだろう。 理屈からいえば Mac で書いて編集し、 レーザープリンタで印刷して、 あとはどうにかして製本すりゃよかったじゃないか。 そのようにして流通した地下出版はあったのだろうか。 あったのかもしれないけれど、 そういう場所からブコウスキーのようなふてぶてしい作家が出てきた話は聞かない。 日本でいうところの ZINE やリトルプレスはお洒落な小冊子で交流する文化でしかない。 もしくは逆に 『球根栽培法』 や 『腹腹時計』 のような政治を口実とした暴力を実現する手段でしかない。 そんな場所から本物の作家が出てくるはずがない。 そんなことを考えながら、 ちびちびと読みすすめたが若い頃のように読書に身が入らない。 憧れの作家だったけれどこの歳になって読むと大人の女性に相手にされずアカデミックな成功者や金持の子息へのコンプレックスでくだを巻くだけの、 ただのめんどくさいおっさんにしか見えなくなった。 狭い界隈の読者に向けて書かれた文章が多く収録されているせいもあるかもしれない。 やはりこれまで未収録・未公開だったのには理由があるような気がする。 おもしろいといえばおもしろいけれど、 あんまり堂々と人前に出すようなものでもないようだ。 世間知らずの若いファンに性的奉仕を無理強いする場面には BUK ならぬ PUKE が出そうになった。 そこにはぞっとさせられる生々しさがあり、 冷水をぶっかけられたオチはとってつけたような感じがする。 『くそったれ ! 少年時代』 や 『詩人と女たち』 といった不朽の名作にはだれがどうがんばったって届きようもないが、 『エロ老人日記』 のような雑文はわたしにとっくに追い越されているかに感じる。 たしかにおれらはあんたのフォロワーにすぎないかもしれない。 でもさ爺さん、 あんた死んじゃったじゃないか。 白血病なんかにかかってさ。 Don’t try, just do it、 そうかもしれないけれど、 死んじゃ元も子もないんだよ。 遺されたおれらはあんたを軽々と越えてみせる。 死んじまったのを後悔させてやろうじゃないか。
ASIN: 4791772938
英雄なんかどこにもいない
by: チャールズ・ブコウスキー
ブコウスキーのすべてが濃密につまった奇跡の一冊。つねに社会を挑発し、不穏なまでに暴力的で、あらゆることを嘲り、当然ながらおそろしく不敬。しかし、それはいっぽうで恐怖や孤独あるいはコンプレックスを抱えながら生きていくひとつの術でもあった。あらゆる小さなものたちへの愛を忘れずに生きたアウトローが私たちに遺した反骨と慈愛にみちた悲しくも美しい珠玉の39編。
特集: エッセイ・随筆・日記
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読んだ人:杜 昌彦
(2020年08月27日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『英雄なんかどこにもいない』の次にはこれを読め!