杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第224回: Get Back

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
10.22Tue

Get Back

こんばんは出版界のMartin Newellこと杜昌彦です。旧筆名時代はこの手のばかげた挨拶を毎回やっていた。当時はセルジュ・ゲンスブールや野坂昭如のような、著者の露悪的なキャラクターを印象づけて作風を認知させる手法に関心があり、自分にも向いていると感じていた。ただしそこに軸足を置くと多くのひとに憎まれる。貶めていい相手だと広く認定される。自分が困るだけならよいが他人まで巻き添えにしかねない。それでやめたのだが、他人との関わりを断ったいまなら別に構わないのではないかという気もしてきた。あるいはただの躁鬱か自傷癖のようなものかもしれない。数年後の自分に見せるつもりで装画の制作過程を記録したところ当時の露悪癖が出て、それはそれでなじみ深く、自分らしい文章だとも感じた。そんなこともあって試験的に再開してみようかと考えた次第である。どうせ五人前後しか読まない文章だ。好きにやるさ。きのうは印刷版の版下をつくるかのようなことを書いた。その作業は延期した。更新版を著者セントラルに依頼して配信してもらい、ざっと目を通したらまたしてもおかしな箇所をいくつも見つけた。直して再アップロードした。気にしはじめるときりがない。だから今回は校正どころか推敲さえしなかったのだが、やはり多少の見直しは必要だったようだ。印刷版は手直しが面倒だ。金もかかる。あと一度くらいは見なおしてからのほうがいいかもしれないと考えた。金さえあれば下読みや校正・校閲を雇うんだけどなぁ。印刷版は急がない。どうせ名刺代わりに配るだけだ。ほかにやりたいこと、やらねばならないことは山ほどある。若い頃は不幸だった。老い先短いいまが青春なのだと思う。好きなことをやり、好きな本や音楽や映画を愉しみ、好きなものを食べ、好きなように生きている。おれの無能を知るひとは信じまいが働くのさえ嫌いではない、むしろ好きなのではないかと思うことさえある。能力の不足がつらいだけだ。月に一度、愉快に飲む友人だっている。今週末のその日を楽しみにしている。総じて人生は、絶対的にはさほど実感できないが相対的には幸福になった。おかげで大抵のことには気持の余裕をもって取り組める。「本の網」は『GONZO』に取りかかる前になるべく更新しておきたい。人格OverDriveのやっていることはカセットテープDIY文化に極めて近い。それでMartin Newellを引き合いに出した。もうひとつ考えていることはあくまで読書が大事ということだ。著者であり出版者であるよりもまず先におれは読者なのだ。いい本を読みたい。いい本と出逢うために何ができるか、というのが人格OverDriveの第一の目的だ。いい本をつくることも含まれるがそれはずっと先の話で、優先度は低い。これまでに読んできた本を独自の視点でつなげる。その網の目の文脈の先に自著がある。読むことが先にあり、その先に出版がある。そんな風にやっていきたい、と抱負を述べたあたりで今夜の日記は終了とし、かつてばかのひとつ覚えのようにくり返した挨拶で締めくくる。おやすみ全世界!


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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