特集: 影の病
ヴァーチャル・ガール
エイミー・トムスン
金色がかった栗色の髪に、左右色違いの大きな瞳が印象的な美少女マギー。彼女はコンピュータの天才アーノルドが自らの伴侶にしようと作りあげたロボットだった。人間と変わらぬ優しい心を持つマギーだが、人工知能の開発が禁じられている今、正体がばれれば即座に破壊されてしまう。かくして二人は追跡の手を逃れ、波乱に満ちた放浪の旅に出た…純真なロボット少女の成長と冒険を描く、スリリングで心あたたまる物語。キャンベル賞受賞。
読んだ人: 杜 昌彦
インディゴ
クレメンス・J・ゼッツ
オーストリア・シュタイアーマルク州北部に、ヘリアナウという全寮制の学校がある。インディゴ症候群を患う子供たちのための学園だ。この子供たちに接近するものはみな、吐き気、めまい、ひどい頭痛に襲われることになる。新米の数学教師クレメンス・ゼッツはこの学園で教鞭をとるうちに、奇妙な事象に気づく。独特の仮装をした子供たちが次々と、車でどこかに連れ去られていくのだ。ゼッツはこの謎を探りはじめるが、進展のないまますぐに解雇されてしまう。その15年後、新聞はセンセーショナルな刑事裁判を報じる。動物虐待者を残虐な方法で殺害した容疑で逮捕されていた元数学教師が、釈放されたというのだ。その新聞記事を目にした画家のロベルト・テッツェルはかつての教え子として、ゼッツが手を染めたかもしれない犯罪の真相を追いかけていく──軽快な語り口と不気味さが全篇を覆い、独特な仕掛けがさまざまな読みを可能にする。既存の小説の枠組みを破壊して新しい文学の創造を目指した、神童クレメンス・J・ゼッツの野心溢れる傑作長篇。
読んだ人: 杜 昌彦
スキャナー・ダークリー
フィリップ・K・ディック
カリフォルニアのオレンジ郡保安官事務所麻薬課のおとり捜査官フレッドことボブ・アークターは、上司にも自分の仮の姿は教えず、秘密捜査を進めている。麻薬中毒者アークターとして、最近流通しはじめた物質Dはもちろん、ヘロイン、コカインなどの麻薬にふけりつつ、ヤク中仲間ふたりと同居していたのだ。だが、ある日、上司から麻薬密売人アークターの監視を命じられてしまうが……
読んだ人: 杜 昌彦
セバスチャン・ナイトの真実の生涯
ウラジーミル・ナボコフ
1899年ロシアの名門貴族として生まれ、米国に亡命後「ロリータ」で世界的なセンセーションを巻き起こしたナボコフが初めて英語で書いた前衛的小説。早世した小説家で腹違いの兄セバスチャンの伝記を書くために、文学的探偵よろしく生前の兄を知る人々を尋ね歩くうちに、次々と意外な事実が明らかになる。
読んだ人: 杜 昌彦
絶望
ウラジーミル・ナボコフ
ベルリン存在のビジネスマンのゲルマンは、プラハ出張の際、自分と“瓜二つ”の浮浪者を偶然発見する。そしてこの男を身代わりにした保険金殺人を企てるのだが…。“完全犯罪”を狙った主人公がみずからの行動を小説にまとめ上げるという形で書かれたナボコフ初期の傑作!
読んだ人: 杜 昌彦
雲
エリック・マコーマック
出張先のメキシコで、突然の雨を逃れて入った古書店。そこで見つけた一冊の書物には19世紀に、スコットランドのある町で起きた黒曜石雲という謎の雲にまつわる奇怪な出来事が書かれていた。驚いたことに、かつて、若かった私はその町を訪れたことがあり、そこで出会ったある女性との愛と、その後の彼女の裏切りが、重く苦しい記憶となっていたのだった。書物を読み、自らの魂の奥底に辿り着き、自らの亡霊にめぐり会う。ひとは他者にとって、自分自身にとって、いかに謎に満ちた存在であることか…。幻想小説、ミステリ、そしてゴシック小説の魅力を併せ持つ、マコーマック・ワールドの集大成とも言うべき一冊。
読んだ人: 杜 昌彦
ルージン・ディフェンス 密偵
ウラジーミル・ナボコフ
至高のチェス小説、究極の視点人物。精緻で奇想的なナボコフ世界へ。自ら愛好するチェスへの情熱と構成美を詰め込み、不死鳥のように甦った偉大なロシア文学と賞賛された傑作長篇「ルージン・ディフェンス」。謎に満ちた視点の語りが驚きをもたらす、ハードボイルドな味わいの中篇「密偵」。1930年代、ナボコフ30代はじめに発表された革新的な傑作2篇を、初のロシア語原典訳で収録。
読んだ人: 杜 昌彦
ブルー・ドレスの女
ウォルター・モズリイ
1948年、ロサンゼルス。失業中の黒人労働者イージーは、家のローンを返済するため、美貌の白人女性ダフネを捜しだす仕事を引き受けた。調査を始めたイージーは、ダフネが出入りしていたもぐり酒場を訪れ、彼女の知人の黒人女性を見つけ出した。が、数日後、その女性が殺され、事件は思わぬ方向へ―アメリカ私立探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞新人賞を受賞し、ミステリ界に旋風を巻き起こした衝撃のデビュー作。
読んだ人: 杜 昌彦
隣接界
クリストファー・プリースト
近未来英国、フリーカメラマンのティボー・タラントは、トルコで反政府ゲリラの襲撃に遭い、最愛の妻を失ってしまう。本国に送還されるタラントだが、それから彼の世界は次第に歪み始めていく……。現実と虚構のあわいを巧みに描きとる、著者の集大成的物語。
読んだ人: 杜 昌彦
わたしを離さないで
カズオ・イシグロ
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。
読んだ人: 杜 昌彦
惨影
マイケル・マーシャル・スミス
謎の殺戮組織“ストローマン”―その幹部だった双子の兄弟ポールの逮捕から五カ月、元CIAのウォードは、FBIの女性捜査官ニーナと共にワシントン州の山奥に潜伏していた。仲間の元刑事ザントは消息をたったままだ。そんなとき、護送中にポールが脱走したことが知らされる。さらに猟奇殺人が発生、ニーナは復職し、ウォードもまた独自の捜査でポールの行方を追うが―。一方、カルフォルニア州サンタ・バーバラ。組織は富裕層の麻薬ディーラーの若者を集めて、かつてない計画を画策していた…スティーヴン・キングを戦慄させた、圧倒的破壊力の奇想スリラー。
読んだ人: 杜 昌彦
孤影
マイケル・マーシャル・スミス
謎の殺戮組織ストローマンの拠点〈ザ・ホールズ〉は壊滅した。だが、莫大な富と有力なコネクションを誇る組織にとって、それは些細なダメージに過ぎなかった。いったいストローマンとは何者なのか?元CIAのウォードは、FBIのニーナと連携し、組織の幹部だった自分の兄弟の行方を追う。二人は容赦なく襲いかかる刺客を何とかかわしていたが……。一方、娘を組織に殺された元刑事のザントは孤独な単独捜査を続け、ストローマンの驚くべき真実に肉薄していた−大統領暗殺、ビックフットの謎がついに解き明かされる!
読んだ人: 杜 昌彦
死影
マイケル・マーシャル・スミス
「わたしたちは生きている」死んだはずの父から手紙を受け取った元CIAの男は、両親の行方を暗示する古いビデオを発見し、それを手がかりに捜索をはじめる。一方、愛娘を連続誘拐魔に殺された元刑事は、再び姿を現した犯人を捕らえるため違法の捜査に復讐の炎を燃やす。やがて、二人の男の必死の追跡は、億万長者だけが進入を許可される謎の共同体<ザ・ホールズ>で交わるが……。人類の転覆さえ視野にいれたあまりにグロテスクな陰謀が暴かれる!——フィリップ・K・ディック賞作家が描くサイコ・スリラー!
読んだ人: 杜 昌彦
スペアーズ
マイケル・マーシャル・スミス
悪夢はここからはじまる…。フィリップ・K・ディック賞受賞作家による傑作近未来ミステリー
妻と子をむごたらしく殺されたときから、ジャック・ランドールの人生は坂を転がり落ちるように悪くなるばかりだった。勤めていた警察も辞め、自堕落な生活を送っていた彼が最後に行き着いた先、そこは“スペア”たちを飼育する「農場」と呼ばれる場所だった。自分より過酷な運命を背負うスペアたちに愕然とするジャック。しかしそこには、彼のハードでクールな魂をふたたび呼び覚ます者たちがいた! 近未来の壮絶な世界を、圧倒的な筆力で描いたノワール・スリラー。
読んだ人: 杜 昌彦
双生児
クリストファー・プリースト
1999年英国、著名な歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンのもとに、第二次世界大戦中に活躍した空軍大尉J・L・ソウヤーの回顧録のコピーが持ちこまれる。グラットンは、次作の題材として、第二次大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルの回顧録のなかで記されている疑義―英空軍爆撃機操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者であるソウヤーなる人物(いったい、そんなことが可能なのか?)―に興味をもっており、雑誌に情報提供を求める広告を出していた。ソウヤーの回顧録を提供した女性アンジェラ・チッパートン(旧姓ソウヤー)は、自分の父親は第二次大戦中、爆撃機操縦士を務めていたと言う。果たして、彼女の父親はほんとうにグラットンの探しているソウヤーなのだろうか?作家の棲む現実から幕を開けた物語は、ジャックとジョーという同じイニシャル(J)をもった二人の男を語り手に、分岐したそれぞれの歴史の迷宮をひたすら彷徨していく…。稀代の物語の魔術師プリーストが、SF、ミステリにおける技巧を縦横無尽に駆使して書き上げた“もっとも完成された小説”。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
奇術師
クリストファー・プリースト
北イングランドに赴いたジャーナリストのアンドルーは、彼を呼び寄せた女性ケイトから思いがけない話を聞かされる。おたがいの祖先は、それぞれに“瞬間移動”を得意演目としていた、二十世紀初頭の天才奇術師。そして、生涯ライバル関係にあった二人の確執は子孫のアンドルーにまで影響を与えているというのだが……!? 二人の奇術師がのこした手記によって、衝撃の事実が明らかとなる!世界幻想文学大賞受賞の幻想巨篇
読んだ人: 杜 昌彦
魔法
クリストファー・プリースト
爆弾テロに巻きこまれ、記憶を失った報道カメラマンのグレイ。彼のもとへ、かつての恋人を名乗るスーザンが訪ねてきた。彼女との再会をきっかけに、グレイは徐々に記憶を取り戻したかに思われたのだが…南仏とイギリスを舞台に展開するラブ・ストーリーは、穏やかな幕開けから一転、読者の眼前にめくるめく驚愕の異世界を現出させる!奇才プリーストが語り(=騙り)の技巧を遺憾なく発揮して描いた珠玉の幻想小説。
読んだ人: 杜 昌彦
幽霊たち
ポール・オースター
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。’80年代アメリカ文学の代表的作品!
読んだ人: 杜 昌彦
ヴァリス
フィリップ・K・ディック
友人グロリアの自殺をきっかけにして、作家ホースラヴァー・ファットの日常は狂い始める。麻薬におぼれ、孤独に落ち込むファットは、ピンク色の光線を脳内に照射され、ある重要な情報を知った。それを神の啓示と捉えた彼は、日誌に記録し友人らと神学談義に耽るようになる。さらに自らの妄想と一致する謎めいた映画『ヴァリス』に出会ったファットは……。ディック自身の神秘体験をもとに書かれた最大の問題作。
読んだ人: 杜 昌彦
Pの刺激 黒い渦
杜 昌彦
『Pの刺激』
呪われた言葉が世界を染める。アヴァンポップな黙示録!
州辻郁夫、24歳。カルト集団自殺事件の生き残り。街は謎の断片群「PCz」に覆われていた。噂では13年前に失踪した無頼派、羅門生之助が作者だという。その孫の家出少女に振りまわされ、渦中へ巻きこまれる郁夫。大量の断片群に刻まれた魔術的想像力は、やがて現実を侵食しはじめ……。硬質な文体で描くダークファンタジー!(2005年)
『黒い渦』
あの渦からは逃れられない。愛と暴力の悪夢世界! 騒乱の夜から十年。かつて天才原型師と呼ばれた宍神は、企業の不祥事を隠蔽する「揉み消し屋」として日銭を稼いでいた。謎の女を救った夜から、黒い幻覚剤を巡る因縁に巻き込まれる。親しい人を「人形」に次々に殺され、過去と対峙した彼が見たものとは? 詩的な暴力描写、予想を裏切るめまぐるしい展開。ウルトラ・ヴァイオレンスな近未来ノワール!(1999年、2006年改稿)
読んだ人: 人格OverDrive 編集部