悪い意味で他人とは思えなかった。 電子版を iPhone で読んでいると日々ウェブ上に垂れ流している自分のことばを読み返しているかに錯覚した。 有害な男らしさの点では現代人のおれのが多少ましにも思えるがそこも実際は大差ないかもしれない。 本の後半になるにつれてこの作家は成功し評価されるので、 その点でも一応の差違は感じられる。 それだけだ。 正直なところ、 つまらなかった。 WordPress やプリントオンデマンドについて手法上の具体的な記述がある分だけおれの日記のほうが有益にさえ思える。 ひとぎらいのようなことを吹聴しながらかれはひとたらしのようなところがあって、 ずいぶんと多くのひとたちとまじわって女性とのかかわりも多かったようだし、 編集者にも読者にも愛された。 朗読会をやれば大勢が詰めかけた。 おれはだれからも疎まれ憎まれ蔑まればかにされるだけだ。 どんな傑作を書いてもだれにも読まれない。 群衆に近づけばみんな逃げていく。 やってることは似ているんだけどな。 ZINE カルチャー的な意味で。 おれも手紙魔だしさ。 でもおれの手紙にはみんな迷惑するだけだ。 だれかがありがたがって本にしたりなどされない。 きっとおれの手紙は長すぎるんだろう。 書いてるときはたいてい泥酔してるしな。 近頃じゃ本なんてものを読むのも書くのもつらくなってきた。 他人の本を出版すれば評価されるが評価されるのはおれではなくその本を書いた他人だ。 他人はおれでないがゆえに評価されるしおれはおれであるがゆえに疎まれ蔑まれる。 ばかばかしい。 なんでまだ生きてるんだ? かつては書くためだった。 書かなければ死ぬ病気だ。 ほう、 そうかい? それがほんとうなら結構だね。 だったらいますぐご託を垂れ流すのをやめろよ。 おれが (これまでの人生と比較して相対的に) 愛されるのは死んだときだけだ。 地上から消え去ればだれも悪臭に顔をしかめなくなる。 なのに書いている。 なんてあさましい下種野郎だ。 たぶん BUK もそんな病気で、 でもかれは最後には愛されて死んだ。 書くのをやめたからでも肝硬変でもなく白血病で。 ソーシャルメディアでバズるわかりやすい悲劇の美少女みたいに。 そんなことを考えながら惰性で読んだ。 あまりに退屈すぎて読み通すのに八ヶ月かかった。 ただ苦痛だった。
ASIN: B09QPP9N3M
書こうとするな、ただ書け──ブコウスキー書簡集
by: チャールズ・ブコウスキー
わたしは作家になろうと必死で努力していたわけではなく、ただ自分がご機嫌になれることをやっていただけの話なのだ。
「自分がどうやってやってこれたのかよくわからない。酒にはいつも救われた。今もそうだ。それに、正直に言って、わたしは書くことが好きで好きでたまらなかった! タイプライターを打つ音。タイプライターがその音だけ立ててくれればいいと思うことがある。」(本文より) カルト的作家が知人に宛てた「書くこと」についての手紙。その赤裸々な言葉から伝説的作家の実像と思想に迫る、圧倒的な書簡集。
特集: エッセイ・随筆・日記
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おれの日記とどう違うんだよ
読んだ人:杜 昌彦
(2022年10月23日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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