私たちが阿部に追いつけたとはとても思えないが、最後に今一度、この作家がいまどこを疾走しているのかを素描しておこう。
自らを成長させ続ける阿部にとって、最新作こそ最重要作品である。
したがって、育成に重点を置いているにもかかわらず、阿部は『Orga(ni)sm』で積極的に母親を描かない。
注意深く見守る「育成」が、閉じこめて殺す「監禁」という裏面を持つことを思えば、この甘い死の匂いにも納得がいく。
破壊と暴力の嵐は生まれ変わり、『Orga(ni)sm』の「阿部和重」を脅かす。
『ピストルズ』では監禁から育成への転換が十分に果たされなかった。
しかし、女性やトランスジェンダーだけが複数の名をもつわけではない。
『ピストルズ』の菖蒲家は、自らの秘術で引き起こされた暴力を償おうとする。
この文脈では、『ピストルズ』の吾川捷子(みずきの母)による監禁に注意を促したい。
『シンセミア』で、監禁は「毛髪」に結びついている。