
CLOUD 9
by: 杜 昌彦
第40話 : Paperback Writer(2)
翌日も暗いうちから列車で撮影した。食堂車でAと昼食をとっていると年長の記者が近づいてきて、僕の自宅で取材したいといった。悪いけど家では仕事を忘れたいんだ、Aだけ来てくれるかな、Cも喜ぶし、Mが晩飯をたかりに来ることにな […]
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第39話 : Paperback Writer(1)
思い返せばMとは酒と幻覚剤で泥酔しながら随分いろんな話をしたものだ。あるときMは愛について定義した。地上の総量が一定で寄り集まる性質を持つと。富める者がより豊かになるアルゴリズムで世界は規定されているとあいつは語った( […]
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第38話 : Nobody Told Me(4)
プラザホテルの周辺では十代の群衆が、金切り声をあげたり僕らの曲を歌ったりしながら待ち受けていた。みんな踝くるぶしで折り返された白い靴下を穿いて、僕らに断りなく商品化された鬘や、手書きの横断幕や写真やTシャツや、僕らの気 […]
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第37話 : Nobody Told Me(3)
親元から独立して家庭を築く試みが難航していたこの頃、初の米国公演が決まった。紛い物のロックンロールやソウル音楽を演奏してきた僕らが憧れの本場にいよいよ上陸ってわけだ。張り切りもしたし重圧も感じた。かの国ではEMIと提携 […]
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第36話 : Nobody Told Me(2)
僕は確かに虫のいい夢ばかり見て、犯罪者の妻さながらの苦労をCにさせている現実から眼を背けていた。でも波風立てるのを優柔不断に避けつづければどうなるか、まるで理解しなかったわけじゃない。それにロンドンでの仕事が増えて、い […]
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第35話 : Nobody Told Me(1)
テロのごとくスタジオを襲撃した狂気は新型感染症のごとく急速に広まった。異常事態に世間がようやく気づいたのはデビューから一年後の一九六三年十月一三日。毎週日曜にロンドン・パラディアムから生放送されるATVの長寿番組に出演 […]
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第34話 : Hellhound on My Trail(4)
誇張ではなく命の危険を感じ、制御不能の騒ぎに巻き込まれたのを悟ったのは、六月末にホテルで書いた曲を七月頭に第二スタジオで収録したときだ。のちにフランスでロックンロールの代名詞になるサビを当初Pは掛け合いにするつもりだっ […]
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第33話 : Hellhound on My Trail(3)
結婚生活をはじめたばかりの若い僕らにこの些細な諍いはいささかショックで、本心をぶつけ合うのを畏れるようになってしまった。ギクシャクして気まずい空気が家庭に残った。僕はBEとの一二日間のスペイン旅行を取りやめなかった。赤 […]
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第32話 : Hellhound on My Trail(2)
一九六二年の残りはひたすら公演と番組出演に明け暮れた。僕らは背後を顧みなかった。僕の移り気のせいではなく、ただ振り返る余裕がなかったのだ。最後のハンブルク巡業の別れ際で、強面の用心棒HFは男泣きに泣いた。僕らがもう下積 […]
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第31話 : Hellhound on My Trail(1)
結婚のおかげで運気が上昇したのか、突如として万事が順調に運びはじめた。キューバの核ミサイル基地のことが盛んに報じられるようになる少し前、一九六二年十月五日にデビュー盤が発売された(張り切りすぎたRはマラカスでハイハット […]