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by: 杜 昌彦
第30話 : Hello, Goodbye(4)
ボビーBやフリーダKは新しい僕らを気に入ってくれた。騒ぎも数日で収まった。ドラマー交代問題はそれでケリがついた。あとは結婚だ。僕らふたりは夫婦になるという考えが次第に気に入ってきた。L夫人、なんですか旦那様と呼びかけ合 […]
第29話 : Hello, Goodbye(3)
八月一五日水曜は「洞窟」で日に二回公演があった。日本では想像力の欠如と忘れっぽさの記念日だとMは話していた。その証拠にそれがどうして大切な日なのか想像するのをだれもが忘れてしまったという。夜公演のあと僕らは翌日に予定さ […]
第28話 : Hello, Goodbye(2)
世間ではキュートな愛され坊やとして通っていて、いまでこそよき家庭人であるPもまた、お嬢様女優との身分違いの恋に破れるまでの行状は、あまり褒められたものではなかった。女たちはある晩パジャマパーティをしていた。Pの婚約者は […]
第27話 : Hello, Goodbye(1)
実のところ件のネクタイは黒地に赤い馬の洒落た柄だった。リヴァティ百貨店で手に入れたちょっといい品だったとかで、GMが気に入っているらしいのは初対面の僕らにも察せられた。だからこそGは弄りのネタにしたのだ。親しくもない相 […]
第26話 : Baby’s in Black(4)
ひとたび滑り出すと商談はトントン拍子に運んだ。ロンドンに呼び出されたBEはGMと握手を交わすや、のちに僕らの音盤で世界中に知られることになる横断歩道を渡って、サーカスロードにある聖ジョンズウッド郵便局で電報を打った。僕 […]
第25話 : Baby’s in Black(3)
僕らは新しいザ・Bを見に来るようAKを挟んでしつこく説得した(当時まだ珍しかったステレオ音響だ——ちなみにドイツはその先進国だった)。夜になり幕が上がると渋っていたはずのAKの姿が最前列にあった。僕はいつもより張り切っ […]
第24話 : Baby’s in Black(2)
はじめたばかりの仕事を休めなかったので、僕らは献花とAKの付き添いをKVに託した。KVにはAKが妙な考えを起こさぬよう見張ってくれと厳命した。詳細は知らないけれど、心配したとおりSの実家でまたしてもひと騒動あって、AK […]
第23話 : Baby’s in Black(1)
伯父の膝で新聞を読み聞かせられて育った僕は、いまだに他人の不幸話を読むのが好きだ。犯罪や事故で大切なひとを亡くした人間は、翌朝どうやっていつもの職場に出勤するんだろうとよく空想したものだ。自分がその立場になってみると無 […]
第22話 : Peppermint Twist(4)
その日の朝、アイムスビュッテラー通りの屋敷で慌ただしく身支度をしたAKは、寝たきりのSに屈み込んで行ってくるわと接吻した。Sは痩せこけた顔に弱々しい笑みを浮かべ、行ってらっしゃい気をつけてと見送った。婚約者が出ていくの […]
第21話 : Peppermint Twist(3)
口やかましい未来人に指摘されるまでもなく、現代の公衆道徳に照らせば当時の僕は完全にアウトで、いまだってキャンセルカルチャーの標的にされないのが不思議なくらいだけれど(若かりし頃の悪行の数々を婆さんたちに訴えられる夢にう […]