きれいな言葉より素直な叫び
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きれいな言葉より素直な叫び

舞台がある限り、そこに立ち続ける。本を届け、文章を綴り、今日も踊り続ける。お客を楽しませたいと必死になるのも、結局は自分の気持ちのためなのだ。踊り子を応援する人たちもまた、突き詰めれば自分のためではないだろうか。できればそうであってほしい。裸になってステージから見えたものは、客席に座る人たちだ。こちらに目を向けているということそのものが、私には素直な叫びに思えてならない。キラキラとした嘘ばかりの世界で、それだけが信じられる。書店員、エッセイスト、踊り子、三足の草鞋を履く著者による「生きづらさ」を原動力に書き綴ったエッセイ集。

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love strip! 観客として踊り子として綴られたストリップの最前線。

読んだ人:一夜文庫

きれいな言葉より素直な叫び

新井見枝香さんは書店員でエッセイストでストリップの踊り子だどれも本気でやっていてどれも凄いだがそんな新井さんももちろん始めから三足もの鞋を履いていたのではないわけでこのエッセイでは新井さんがまだストリップのお客さんだった頃からサプライズで舞台に登場した後に本格的に踊り子さんになっていく日々が綴られている

 私は元々ストリップに興味があって新井さんを知ったのでエッセイストとしての新井さんの作品をきちんと読むのはこれが初めてだった初めて読んだ新井さんの文章は簡潔でざっくばらんでそして鋭く核心を突いてくる優しさも冷たさも明るさも暗さもあるそして怖いくらい率直だ

 新井さんはストリップを見る側から書き踊る側から書き文章や踊りで表現することについて書きSNS での発信について書きストリップ観劇の師匠を違う仕事に送り出してくれる書店の仲間を友人知人の反応を劇場や踊り子さんやお客さんを書く現実的な話も包み隠さず書くストリップ業界の厳しさ踊り子の生活の不安定さ人気の有無がすぐ分かってしまう残酷さ踊りを鍛え上げ演目を練り上げ可愛い衣裳やメイクで着飾っても結局裸や股間しか見られないかもしれないことけれどストリップの常連さんは裸の女の子よりも踊り子を見に来て応援しているようだということ誰もいない客席の怖さ支えてくれるお客さんの存在の大きさ直撃するコロナ禍オリンピックでの体面を保つためかのように小さな劇場に入った摘発と営業停止⋯⋯ストリップを取り巻く状況が厳しくなる中でそれでも新井さんはストリップをやめたくないと書くやめないでほしいと読んでいる読者の私も思うだってこの本の隅から隅まで新井さんのストリップ愛に溢れているのだもの

 この本の第二の主役はかあちゃんこと相田樹音さんだろう見枝香さんをストリップに導いた伝説のストリッパーそのひとの美しさ情の厚さあふれんばかりに注いでくれる愛情楽しませようとするサービス精神怪我にも負けない強さ時に弱気にもなる脆さなんて人間くさいのだろう小説のモデルにもなった伝説のストリッパーにギリシャ彫刻のような美しい完璧超人を想像していたらその人間味あふれる温かさに打ちのめされた

 この本を読んだ人はみんなストリップを観てみたくなるはずだといってもやっぱり実際に行く勇気がない⋯⋯という方も多いかもしれない私もどちらかといえばそうだったのだがこの本を読み終えた直後に見枝香さんの出演予定を調べたらちょうど本の中にも登場するシアター U での公演の真っ最中! しかもあの樹音さんも一緒に出ているという! これは行くしかなかった! 行ってきた!

 見枝香さんがお客さん時代にシアター U に通ったのが分かる気がした下町の無骨でゆるくて気取らない感じがラクだった昭和の漫画のネタではない本物の踊り子さんにお手を触れないでくださいのアナウンスを聞いたときはかなり感動した

 エッセイを読んでから行くと劇場の楽屋の狭さも見えずとも察せられるちょうど私の見た回で照明のトラブルがあって楽屋裏のざわざわしている様子最後まで踊れなかった踊り子さんがくやしー!と明るく悔しがる声が聞こえてきてほっこりしたご本人はとても悔しかったと思うけどそれでも切り替えてオープンショーで踊る姿がいじらしくて可愛らしさ倍増だった

 樹音さんも見枝香さんも本で読んだそのまんまだったかあちゃんとみえかどんだったポラタイムに樹音さんが見枝香さんの列に並び楽しそうに掛け合いをしているふたりほんとうの親子じゃないけどだからこそある親しさがみんなを和ませる

樹音さんのストリップは磨き上げられた技で魅せてくれる手を伸べられて目線が合った⋯⋯と思った瞬間私は一瞬にして悩殺された魂を抜かれたお客さんのおじさまたちを見つめて頷く樹音さんはきっと目線でおじさまひとりひとりを抱きしめているのだ

 見枝香さんの演目はエッセイに書かれている恋した記憶を消されてしまうロボットのお話かもしれないと思ったのだがせつないお話のはずなのに私にはせつなさ以上に愛することの喜びが伝わってきた見枝香さんはその演目でずっと花が咲いたような笑顔で本当に楽しそうに踊っていたその楽しさはもちろん作品としてそう作り込まれた楽しさなのだろうけれど本当に楽しそうで見ていて胸いっぱいに幸せになった突き抜けた明るさはひとを励ますのだと知った

 緊張でガチガチになりながら樹音さんと見枝香さんのポラ写真を撮らせて頂いたサインを入れて渡してもらった写真に樹音さんはこれからもみえかどんをよろしくお願いしますと書いていた樹音さんはやっぱりどこまでもみえかどんのかあちゃんなのだ

 見枝香さんは本を読んだ人に樹音さんを見てもらえてよかった」 「これからも書き続けるよと書いてくれた書き続けてほしいし本屋さんでもいてほしいし踊り続けてほしいそれが並大抵のことではないのは本を読んでいても察せられたけれどやれるところまでやってほしいそんな見枝香さんにしかできない仕事を文章を踊りをこれからも魅せてほしいのだ

 初めて行ったストリップ劇場は愛に包まれている場所だと思った裸をぜんぶ観ていいよということはある意味究極の愛の示し方ではないだろうかここにいていいんだよあなたを愛しているよというオーラにまるごと包まれたそれは作り物で紛い物なのかもしれないそもそも現実の世界にだってほんとうの愛なんかないかもしれない現実がそうなのだからストリップ劇場が与えてくれる愛なんて見枝香さんも書いているようにそんなものは大嘘でそんなことは見る側も演じる側も分かっているそれでも劇場にいる間は観客は確かに愛されているのだ普段の暮らしでどんなにひとりぼっちでも劇場の踊り子さんはそんなひとりひとりの心を磨き上げた肉体美と芸の力で抱きしめてくれる私は女性だけれどそんなことが些細に思えるほど男も女も老いも若きも等しく愛で満たしてくれるのだ

 この本を読んだらぜひストリップに行ってみてほしいストリップには独特の観劇ルールもあるがこの本で予習していくとわりとすぐ馴染めるはずだもちろん本来のお客さんであるご常連のおじさま達へのリスペクトは忘れてはならないしお邪魔になってはいけないけれどそれでも劇場は私のようなおどおどした挙動不審の初心者闖入者もおおらかに受け入れてくれた

 エッセイそのままのかあちゃんとみえかどんにぜひ逢いにいってほしいそうストリップは会うではなくて逢うなのだあなたと素敵な踊り子さんたちとのひとときの逢瀬なのである

(2023年02月19日)

寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。杜作品を読み人格OverDriveに憧れている。
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新井見枝香
1980年7月24日 -

かつては三省堂書店に、2019年5月より「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」に勤務していた書店員。エッセイスト。ストリッパー。文学賞の「新井賞」を主催。