妄想中年日記

連載第72回: スパイ映画を楽しむ

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
09.15Fri

スパイ映画を楽しむ

『SPY/スパイ』をみた。すっごくおもしろかった! 実際には有能なのに、「おまえにはできない」といわれて育ち、職場でも惚れた男からそのように信じ込まされて内勤をしていた主人公が、ずっと支えてきた彼のミスを補うために体をはった仕事にまわされ、無能なのにマッチョを誇示する別の男に溜息をつきつつ、悪党たちを敵にまわして大活躍する話。配役がまた絶妙。内助の功でしか女を評価しないイケメンにジュード・ロウ、マッチョ男にジェイソン・ステイサム。自分が演じてきたイメージを茶化すような役を厭味なく演じる彼らはすごい。何よりも主人公役メリッサ・マッカーシーの魅力にやられた。知的でチャーミングでパワフル。最高! 悪党たちも楽しげに演じていて、アクション映画はこうでなくちゃと思った。こんな楽しい映画が日本ではビデオスルーだったのが信じられない。

その前には『コードネーム U.N.C.L.E.』を観た。このところスパイ映画ばかり観ている。たぶんiTunesがスパイ映画推しなんだと思う。iTunesはAmazonとちがって棚づくり的な編集がうまい。Amazonはおそらく極力、人間の手を入れずに経済効率を最大化する表示に特化している。コンテンツを扱う二大IT企業でありながら方針が真逆なのはおもしろい。『コードネーム U.N.C.L.E.』もなかなかの傑作だったけれども、『SPY/スパイ』のあとで思い返そうとしてみると、どうも薄ぼんやりとした印象しかない。高級スーツをセクシーに着こなすイケメンとPTSDによる癇癪もちのイケメンがはりあいながらかっこよく活躍する話。というだけですべて言い尽くせる気がする。なんのリメイクだっけ、ああ『0011ナポレオン・ソロ』か。『それ行けスマート』は『ゲット スマート』だ。『ゲット スマート』は『SPY/スパイ』同様に「面が割れてないから」という理由で内勤担当が……という話なんだけど好みじゃなかった。喜劇というよりもおふざけという感じがした。おふざけスパイ映画でも『ズーランダー』なんかは大好きなんだけど。似たような映画にもうひとつ言及しようとしたけどなんだったか忘れた。

これまで映画にせよ小説にせよスパイものは敬遠してきた。政治に関心がないと愉しめないような気がしたのと、発想が古くさいような印象があったので。食わず嫌いだったかもしれない。ギャビン・ライアルも70年代までの航空ものが大好きで80年代以降はまったく手をつけていない。読んでみようかな。これまでに読んだスパイものでもっともおもしろかったのはゴンザーロ・ライラ『アクロバット』だった。大変な傑作なのに評価されずに忘れられているのが惜しい。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『逆さの月』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。最新恋愛小説『ぼっちの帝国』連載中。
ぼっちの帝国