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女二人のニューギニア
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女二人のニューギニア

文化人類学者で友人の畑中幸子が住むニューギニアの奥地を訪ねた滞在記。想像を絶する出来事の連続と抱腹絶倒の二人の丁々発止。


¥990
河出書房新社 2023年, 文庫 288頁
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過酷すぎる抱腹絶倒の旅と消えゆく民族の暮らしの記録

女二人のニューギニア

とにかく破壊力満点のエッセイだ私も人に教えてもらって読んだのだが読み終えると誰かれ構わず勧めたくなる読みやすくてとにかく面白いのでいろいろな人に勧めまくった一九八五年七月に朝日文庫から刊行されたものが河出文庫で再文庫化されたこういう面白い本がきちんと発掘されたことは素直に喜ばしい読書の面白さをあまり本を読んだことのない人にも知ってもらうために本好きとしてはこういうおすすめレパートリーを何冊か持っておきたい

友人の文化人類学者である畑中幸子さんを訪ねて一九六八年三月にパプアニューギニアの奥地を訪れることになった作家の有吉佐和子さんの旅エッセイなのだが旅とひとことで言ってしまうにはあまりにも過酷すぎる行程だ行きはジャングルの中を三日かけて徒歩で移動するのだ三日! 徒歩で! こうさらっと書いてもその行程の辛さが全然伝わらないあの辛さと面白さはとにかく読まないと分からない辿り着くまでのインパクトが強すぎて目的地に着いてからの日々のエピソードが霞みそうなくらいだが着いてから帰国した後の最後の最後まできっちりみっちり過酷エピソードが詰まっているこんな過酷な旅に誘った友人や止めてくれなかった周囲の人々への有吉さんの怨み節は深い怨念が込もって切実でそれでいてコミカルで面白い

現地で生き生きと調査にあたる畑中さんの様子も凄いパワフルすぎて怖いくらいだ研究対象のシシミン族はジャングルの奥深くで移動生活する狩猟民族で他の部族との戦いともなれば平気で人も殺す当時まだ欧米社会とコンタクトを取るようになって三年位しか経っていないよほどの気の強さがないとそんな異文化の中ではとても渡り合っていけないのだろう東京ではおとなしかった畑中さんがニューギニアでは研究対象のシシミン族の男たちと渡り合いいらだち怒り時には怒鳴りつけるその豹変ぶりにたじろぐ有吉さんけれど有吉さんもインドネシア育ちだから日本にいると風邪をひくなんて書いているどこか日本に馴染みきらないようなふたりは案外似た者同士なのかもしれない

ふたりはこんな会話をする

中略子供さえいなかったら世界中放浪してまわっているんじゃないかと思うことがあるわインドネシア育ちのせいかしらね

私も大連育ちやから日本にいると息苦しくなってきてああ外国へ出たいと思うのかしれん私らの国あれちょっと狭すぎるなそう思わへん?

狭い日本におさまりきらない強烈な個性や強さの持ち主だからこそ畑中さんは毎日なにかにブチ切れながらも調査を続けてこられたのだろう。 「ニューギニアはええとこやと言いのびのびと研究にいそしむことができたのだろう

シシミン族は男中心の社会で有吉さんが訪れた時点での畑中さんの調査では女は七八歳で売られ十歳位で妻とされるらしいということだったそれだけ聞くとあまりにも痛ましいが酋長のフィアウの妻の出産のエピソードから察するに女には女の社会が形成されていたようだ何をするでもなく畑中さんの家に上がり込むシシミンの女たちの描写を読むと彼女たちも彼女たちなりにしたたかに生きていたのかもしれないと思う

今のパプアニューギニアはどうなっているのだろうこの本に書かれた地はこのあとどんなふうに変わっていったのだろう読んだ人が必ず思うであろう疑問にはこの本は答えていない巻末の平松洋子さんの解説では文化人類学的な話やシシミン族のその後についてはあまり踏み込まれていないそこが私には少々不満だったいま再版するのであればその点についての解説はあったほうがよかったのではないかしかしあの時代からこれまでの時代の激動を鑑みるに当地の変化は巻末数ページで解説できるほど単純なものではないのだろうシシミン族について少し検索してみると畑中幸子さんの著書ニューギニアから石斧が消えていく日ー人類学者の回想録が出てくるその紹介文によるとその後のニューギニアには鉱山開発の波が押し寄せたようだもうシシミン族の暮らしはすっかり変わってしまっているのかもしれない女たちの扱いを考えればそれはいいことのようにも思えるけれども現代の主流にある価値観とは全く異なる彼らの価値観が失われたとすれば大きな力が流入することでその土地のアイデンティティが破壊されることの重みをしっかりと省みたい

また男社会での女の生き方を考えたとき今の日本や世界でもシシミン族のように女が所有物として扱われる価値観はまだまだ根強く残っているもしかしたらフォーマットが違うだけでそういう意識や野蛮さは人類のある種のひとびとにとって共通するものなのかもしれないそのことを考えると気持ちが萎むようだがそこで改めて畑中さんの奮闘ぶりを思い出すとそれでも女たちはずっと戦ってきたのだと知らされるこれからもあきらめずにそういう思想に抗っていかなければならない

有吉さんにとっては最初から最後まで災難としかいいようのない旅の話なのだが読者にとっては抱腹絶倒の愉快なサバイバル旅行記だ軽く読み流してあぁ楽しかった!で終わらせることもできるしかし読み方によっては文化人類学や女の生き方について深掘りもしていけるような懐の広い一冊だった

(2023年01月24日)

寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。人格OverDriveに憧れてダメ元でお願いしたら書かせて頂けることになってしまい震えている。永遠の前座。
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AUTHOR


有吉佐和子
1931年1月20日 - 1984年8月30日

日本の小説家、劇作家、演出家。日本の歴史や古典芸能から現代の社会問題まで広いテーマをカバーし、読者を惹きこむ多くのベストセラー小説を発表した。カトリック教徒で、洗礼名はマリア=マグダレーナといった。代表作は『紀ノ川』、『華岡青洲の妻』、『恍惚の人』など。

有吉佐和子の本