D.I.Y.出版日誌

連載第71回: クリミナル 2人の記憶を持つ男

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
09.12Tue

クリミナル 2人の記憶を持つ男

iTunes でクリミナル 2 人の記憶を持つ男をみた家族の記憶のエピソードには大いに泣かされたし荒唐無稽な SF 設定を割引けば悪くない筋書きだった結末は腑に落ちなかったたしかに CIA 職員は善人だったろうし犯罪者はいないほうがいい人間だかといって CIA 職員は死んだのだし犯罪者が社会病質になったのは前頭葉の損傷が原因でありその障害の治療法として SF 的な設定が用意されたのではなかったかであればあるべきハッピーエンドは善人の記憶を移植して前頭葉を正常に発達させ人間としての機能を回復することであるはずだ社会病質という障害が消え失せることではあってもCIA 職員が犯罪者に取って代わることではないCIA 職員の視点・主観で物語が進行するのならそれもありだったかもしれない犯罪者視点の映画ではどうもしっくりこない

家族の記憶のエピソードで泣かされつつも腑に落ちなかったといえばゴースト・イン・ザ・シェルもそうだった。 『クリミナルと違ってこちらは見どころが少ない桃井かおりの演技くらいだ全体にひどい出来でありながら彼女だけはよかったおそらく SF 的な意匠を盛り込みすぎたのが失敗の要因だろう押井守のアニメ映画が成功したのは切り詰めた表現のおかげだったハリウッド版はまるで冴えない素人の二次創作作品を見せられているかのようだったタルコフスキー的な鏡像イメージのオマージュにも必然性がなかったああいう描写は主題を象徴する意味があって初めて成立するものだと思う


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。