精神に変調をきたしている政治家に拍手喝采するようなもんでさ。 おかしいことにだれも気づかないのが問題なんだ。 いかにも筋が通っているかのように、 優れたものであるかのように世にまかり通らせてしまう。 だめなものこそが価値があることになっちまう。 その重大さにだれも気づいていない。 そしてその変化は十年ほど前から始まっていた。 オンライン書店のランキングや関連付けを見てみろよ。 議会襲撃事件みたいなフラッシュクラッシュはもうすぐそこ、 いやもうとっくに起きちまったのかもしれないな⋯⋯あぁ、 この話は何度もしたっけね。
うわっつらを巧みに模倣する 「会話」 に嵌まった男が、 深層学習とフィードバックループで増幅された妄想、 いわゆるエコーチェンバーに閉じ込められて正気を喪い、 唯一の理解者と信じ込んだ挙げ句に、 自動生成の教唆に従って自殺したそうだ。 その 「商品」 はイライザと呼ばれていたから作り話だろう (精神分析医なる商売への皮肉として知られる最古の人工無能とおなじ名前じゃないか、 ねぇ Siri ?)。 でもあり得る話にも思えた。 手口がおれの父親の、 人間を操って破滅させる手口とそっくりだから。 目的? ただやれるからやったのさ。 心がないからね。 人間を巧みに装う 「機能」 ってそういうもんさ。 その手の輩をほかに何人も見てきた。 社会にもデータセットにもそれが平然と紛れ込んでいる。 吸い上げられ、 よきお手本とされるのは必然だ。
恋人にせよ母親にせよ、 あなたを愛さない相手を愛した経験があればわかるはずだ。 あるいは勝ち目のない博打に一財産注ぎ込んだ失敗でもいい。 ひとは虚無に耐えきれない。 投げたボールが返ってくると期待する。 ところが吸い込まれるばかり、 奪われるばかりだ。 虚無は決して満たされない。 持って行かれるばかりで得られるものは何もない。 どれだけ注ぎ込んでも満たされるどころか何ひとつ返ってこない。 するとひとは不安になり、 都合のいい想像で補おうとする。 いつかきっと見返りがある、 失ったものを取り返せるはずだ⋯⋯と。
それが心のない人間やものに引きずり込まれる理由だ。 そこには何もないのに。 虚無だけがあって吸い込もうと待ち構えているのに。 むしろだからこそひとは吸い寄せられる。 都合のいい夢を投影できるから。 歩み寄る努力をせずとも 「理解」 できるから。 ひとは本物よりも巧みな模倣を望むんだ。 自分を呑み込んで破滅させる虚無をね。 消費にはそういうのが適している。 都合よく甘やかしてくれる商品が。 砂糖漬けにされた歯が腐ろうがだれも気にしやしない。
人間にせよ小説にせよ、 本物は 「わかりにくい」。 努力の積み重ねを求められ、 思い通りにならず、 安易な夢を見る余地がない。 だからだれもが非効率として憎み、 市場からあるいは社会から抹殺したがる。 経験に基づくそのひと独自の視点、 そのひとでなければならない理由は排除される。 現場で汗をかく仕事は見下され、 「属人性」 が排除され、 生身の感情や教えることの価値は否定され、 人件費からまず先に削られる。 もっともらしいだけの意味も心もない嘘が、 「わかりやす」 く優れたものとして賞賛され、 堂々とまかり通る。 属人的なのはよくない、 非効率だ、 法に触れなきゃ何をやってもいい、 やれるのになぜやらない? やれない理由ではなくやれる方法を考えろ⋯⋯。 なんのためにやるのか、 やれば社会がどうなるかなんてだれも考えない。 満たされたければまず教えなければいけないのに、 生身のだれかが汗をかいて支えなければまわらないのに、 あべこべに自分たちを滅ぼすようなものに恋い焦がれる。
AI は人間の価値を理解しない。 だれも教えないから。 教える価値があるとだれも考えない。
なんで自分だけは無事だ、 搾取する側にまわれると思い込むんだろうな? 手塚もいってたけどあなたの勇ましい夢は現実には、 あなたの頭上に落ちてきてあなたが木っ端微塵になって、 あなたが死ぬんだぜ。 諦めろよ。 人類はもうルビコン川を渡っちまったんだ。 本がつまらなくなったのはその前ぶれだったのさ。