D.I.Y.出版日誌

連載第372回: 雪解けを待つ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2024.
03.07Thu

雪解けを待つ

YouTube で SUPERCAR がサジェストされたかれらはおれより二歳下なんだけど当時の映像をいま見るとびっくりするくらい童顔だな世界に評価される仕事を青森でやっているという考えに当時はつよい印象をうけたでも大人になったかれらは結局は東京へ出て行くんだよなエレクトロに行って関心が薄れてその後は知らなかったWikipedia によればドラムのひとだけ地元に残って就職したそうだ好きなドラムだったんだけどおれにとってかれらはグローバルとローカルのありようへの希望だったんだけど結局はローカルはグローバルに従属するしかなくて都会へ出て行かなければ仕事はできないんだって幻滅を象徴するものになってしまったそして打ち込みに行ってドラムが就職機械があれば人間は要らないし地方にいたら仕事はなくて車ごと流されるか年寄りと一緒に潰されるしかない高いショバ代を払ってベゾスやマスクの顔色をうかがって商売するしかないんだ両親がきちがいという糞溜に生まれ育ったためにおれは汎用性を失いローカルであることから永遠に逃れられない

 だれからも愛されたことがないおれであるかぎり愛されず書くものも相手にされないだれからも別な人間になるよう求められるおれだっておれ以外になって受け入れられたいでも糞溜で生まれ育った呪いからは逃れられず悪臭とともに生きるしかないおれがおれであることの責任は棚上げにできないだから笑い物にされ淘汰されるおれでないから受け入れられ愛される他人がうらやましい別な人間でさえあれば努力があっさり認められるむしろ努力なんてせずとも生まれながらに価値があるおれは何をしても他人の養分にされるだけ無価値が可視化されるだけだれからも疎まれるほど無能で不快人間性の欠陥客観視できたところで治らないだったら目を背けてゆかいに過ごしたほうが他人にとっても不快感が減るなのにそうするだけの材料がないうまくやっている他人ばかり目に入るアルゴリズムは利益になるユーザとそうでないユーザを峻別し格付けしてその格差によって利益を得る戦争が儲かる仕組みとおなじだそんな社会の喰い物にされたくないから他人を視界から締め出すだれも出版しないから自分で出版どこも受け入れないからサイトをつくるソーシャルメディアでうまくやれないからサーバを建てて自己隔離Amazon でうまくやれないから自分のサイトを直販に手間暇かけてなんも手に入らない生き恥がつのるだけだ

  Mac ではメディアページをブックマークして画像を見に行っているんだけど iPhone では履歴からなむさんのプロフィールページへ行くので華やかな世界が視界に入ってしまうハヤカワ SF コンテストが長篇も受けつけるかたちで復活していたのを知らなかった他社が見いだして育てた著者を使うことにしたから新人賞はやめるとかれらが宣言して冬の時代がはじまりSF で育ったおれは見棄てられた雪解けが訪れたときにはファンはもはやスランではなく仕事のできないデジタルデバイド弱者が招いた混乱を有能な人間が IT 技能を駆使して世界を救うといったプロットの勝ち組のためのジャンルに成り果てていた自主出版ではなく応募していたらとも夢想したけれどデジタルデバイド最底辺のおれは求められる資質と真逆でかすりもしまいし選ばれたとしても営利出版社とうまくやっていけないことは二十代で痛感しているおれの書くものはどこでもカテゴリエラーすでにあるものと似ていないから売り方にお手本がないから選ばれない売れた実績がなければ会議を通らない差別や偏見といったすでにあるものを再生産するのが営利企業の仕事でそれに抗えば冬のダムで遺体となって発見され下請け同士を争わせる道具だしにされる

 知識と経験のある編集者と本をつくりたい本のことをずっとよく知っているだれかとディスカバラビリティを実現するディストリビュータもほしいつまり文芸出版エージェントなんだよなでも日本にあるのは成功した著者を対象とする企業と虚栄出版の詐欺師のみ契約する金もないそしておれはどうやら既存の営利出版における商業作家になりたいのではないらしいいまやっていることの延長上にある何かだ商業作家は何ひとつ会社に護られていない会社員のようなもの責任だけ社員並みの下請けにすぎない保険も有休もなく税金の計算も自分でやらねばならない一方で企業の枠組のもとで上司に命じられたものを命じられた通りに書かねばならないそれは作家じゃなくてライターであり Uber Eats の配達員を飲食店経営者と称するようなものだたとえていえばおれは手づくりアクセサリ作家みたいなものを目指しているのかもしれないあるいは自作キーボード作家設計して書いて出版して梱包して売る工程をすべて自分でやり作品というよりもそうした活動そのものにお代をいただくだとしたら答えはまだ見えないにせよ正しい方向には進んでいるようにも思える何が街の本屋さんだ金太郎飴みたいな品揃えしかやれないくせに本はカフェの飾りじゃないんだよおれはおれにしか書けない本を出版して売るだれもやったことのないことをやってきたのだから評価されなくてもしかたない若い頃に失った希望ではなく新しい音楽を聴こう


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。