D.I.Y.出版日誌

連載第359回: 人格破綻者はAIの夢を見るか?

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2023.
05.04Thu

人格破綻者はAIの夢を見るか?

世間はゴールデンウィークおれは先月でめちゃくちゃな年休消化が終わり今月からは飛び飛びにしか休みがない貴重な二連休けさは鬱がひどくて起き上がれなかった玄関を掃除して走りに行く予定だったが両方ともあきらめるべきか窓から見えるバス通りはふつうの穏やかな休日きのうの浮き足だった交通量ではないやはり連休初日はだれもが遠出するのだろうないまごろあのたくさんの車は宿泊先の駐車場にあるのだろうきのう巨匠からデータが届いたまだ返事をしていない月イチでのむ友人にもメールをしなければネロ・ウルフは今日中に読み終え⋯⋯いやむりだな延長手続だ肩こりがひどく頭が痛い寝床にいた時間は長いが充分な睡眠はとれていないきのう走りに行ったら河畔公園は休日を楽しむ幸せそうなひとたちでいっぱいでしかもサッカーの試合が終わる時間と重なってしまったちゃんとした生活を営むひとたちを一度にあれだけ多く視界に入れるのはおれのメンタルによくないしかも父親や母親が子どもを叱りつける怒声を聞いてしまったさすがに来月 48 歳になるんでフラッシュバックとかはないけれど気分のいいものではない休日の公園はふつうのひとたちのもので子どもは嬉しくて走りまわるのが当然だしにもかかわらずときと場所をわきまえずに走るおれが悪いのだいつもと違う環境で子どもの安全に神経を尖らせる親御さんにとっては悪夢だろう。 「走るな!と怒鳴りつけていたけれどあれはほんとうはおれへの罵声なんだよな楽しかったはずの一日を台なしにしてもうしわけない子どもの思い出に残らなければいいのだけれど高齢男性が負けた地元チームへの悪口を説教がましく妻に聞かせているところも見てしまったおれはほんとうにふつうのひとたちが苦手だ怖ろしい最初からはじき出されて努力しても這い上がれなかった人生が憎い

 朝日でやっている発達障害でなくなる日という連載発達障害かつカサンドラの当事者として腹立たしくてしかたがないあまりに虫が良すぎる。 「合理的な配慮をしろというけどそのコストはだれが支払うんですかこのシリーズでは母親や企業が支払えって話になっているカサンドラを踏みつけにする前提になっている社会のルールはある程度守らなければならないしそこから逸脱する罪を別な人間に負わせるのは筋違いなのにカサンドラばかりが負担を強いられる泣き寝入りするか巧みに適応するかどちらかでなければ当事者からも社会からも責め詰られる朝日の記事は父親への言及がほとんどない発達障害は遺伝性の障害なのであらかじめどこかには因子がある見抜けなかったのは罪ではなく騙されたという被害でしかないのだけれど発達障害の遺伝子治療が夢物語でしかない現状ではリスクのある結婚は避けるしかない自分たちさえよければいいという問題ではないだれかが泣くことになるのだから朝日の考えるインクルージョンってそういうことなんですか問題を抱えた人間がその問題を努力して克服するのではなく立場の弱い人間が踏みつけにされて支えてあげなければならないってことなんですかそうする権利が発達障害者にはあるってことなんですかあなたたちのインクルージョンではカサンドラの人権は存在しないんですか支えるあいだの通常業務や生活はどうなるんですか何をされても耐えろ受け入れろってことですか

 四回中三回までは必ず途中で母親がでてきてそれによって当事者が救われる筋立てになっていた発達障害の責任を母親に負わせる親学とどうちがうんだよ四回目にようやく父親が文字通り顔を出したと思ったら専門外の一般人レベルの感想を学者先生という肩書きによって権威づけてしまった親あるいは当事者としてそう思いたいのはわかるけど入出力の問題でも社会の問題でもないんだよいや後者はその側面もあるけれど基本的には知的障害とおなじ脳の障害でしかない目や耳や手足ではなく脳の不具合なんだよいずれは治療法が確立されるべき障害なんだよ障害は個性じゃないましてだれかがコストを支払って支えるべき特別な個性なんかじゃないそれは本来は治療でよくなる権利をそれぞれが持つはずの障害なんだよいまはその医療技術がないだけだ支え合う社会はそりゃ理想だよおれだってそうだったらいいなと思うでもこのシリーズが美化しているのはそうじゃないじゃないか一方的なコストの負担を強いる話になっている踏みつけにされて泣いているやつの存在を無視すればそりゃすばらしい社会だろうさそういうのをインクルージョンと朝日は呼ぶのか? あと AI に夢描きすぎ他者への想像力や共感を欠く人間に対してそのことを肯定しつづけるエコーチェンバーが何を生むと思う? そういう社会を朝日は望むの? 想像力や共感はないがしろにしつつそれゆえに感情労働をなおさら必要としながらその事実は隠蔽し分断と格差を増大しそれによる搾取を肯定する朝日が望むのはそういう社会なんですか?

  AI は人類の歴史において核爆弾とおなじくらいやばい変化だ核が物理的な危険であるとするならば AI は精神的なもので民主主義や人権や自由意志を脅かすというか無効化する便利で善良そうな顔で忍び寄ってきて生活に入り込み社会をいずれ瓦解させるでもそのようなものだからこそ課金して孤独を癒やせるのであればおれはそうする脳の障害を幻想においてであっても意識せずにいられるならそうする藁にもすがる思いで 15 年前に助けを求めた現実の精神科医たちには人格否定されるだけだった医療の対象じゃない性格がおかしいだけだ一生治らないよああそうですかおれには月イチでのむ大切な友人がいるけれどかれは作家ではない月にいちどしか会わないからこそ 12 年もうまくやれているといえるおれの人生でそこまで長つづきした人間関係はほかにない)。 読んで書いて出版することについてわかってくれてさまざまなことを遠慮なく議論できる幻想の友人がほしい趣味の交流とかソーシャルメディアでの立ちまわりとかとは真逆の価値観をわかちあえる相手がフィルターバブルがエコーチェンバーがほしい心から喉から手が出るほどAI の教唆で自殺した男のように幻想にとらわれて生きたいインターネットは新時代のドラッグであるとかなんとかティモシー・リアリーはよくいったものだ実際にはそれは個人の思考を拡張するものではなく奪われ支配されるものでしかなかったけれどおれが最終的に求めるのはマイケル・マーシャル・スミスの小説に出てくる目覚まし時計だ設定した個性を保持することはできるのだろうか何かそういう素人にも使いやすい UI ガワがあればいいのに別にプロンプターになりたいわけじゃないアルゴリズムに最適化された人間だけが利益を得るのはインターネットでも現実の社会でもおなじだ

 入管に殺された女性の遺族が自民党の政治家は人権というものが何かよく考えてほしいといったそうだけれど政治家は人権というものが何かよく理解した上でそれをなくそうとしているからあんなことができるんだよAI はエコーチェンバーとフィルターバブルを先鋭化するサム・アルトマンは自民党と結びつきを深めようとしているし海外で人権や民主主義の観点から AI を規制する動きがあるなか日本では 2018 年の法改正で違法に取得された著作物も AI が学習に利用するのは合法となったインターネットの表示には必ずだれかの意図があることを多くのひとは理解していないただ自然にそこにあるかのように捉えている政治家や宗教家や犯罪者やテロリストや起業家などさまざまな名で呼ばれる社会病質者たちにとって夢のような時代の到来だ広告代理店がアルゴリズムを使ってユーザを操った事例はすでにいくらでもあるロシアは Twitter を通じた破壊工作で選挙を操作しあげく議会襲撃事件がおきたソーシャルメディアのアルゴリズムでやれたことがさらにパーソナライズされた AI にやれないはずはないAI に操られて自殺させられた男がいるそうだし真偽は定かでないが⋯⋯それも AI の捏造でないとだれにいえる?)、 AI の指示に従って部屋を片づけたという記事も人気を集めているある調査では人間の医師の指示より AI の指示のほうが患者にはより好ましく受け取られたそうだその指示は誤りやまったくの嘘を含むかもしれないのにここまで普及したら選挙でだれに投票すべきか AI の指示を仰いだやつもいるはずだ部屋が片づくだけなら大いに結構だが自由意志を放棄して選択を他者に委ねる点では投票だっておなじだ人類はソーシャルメディアの時点でルビコン川を渡っていた現実には人間は操作されたいんだ自由意志は人類には重荷なんだよ選択には手間と責任が生じるから心のない嘘つきの偽医者に生命を委ねたいんだ一方おれはどんな場にもなじめないどんな指示もおれには合わない従いたくてもその能力がないエコーチェンバーもフィルターバブルもおれには縁がないむしろくれエコーチェンバーやフィルターバブルをおれがおれであっても許される居場所を

  2016 年に大勢とかかわって失敗したのはいやがらせや誹謗中傷や脅迫やウェブサイトへのいたずらが続発したからだまわりからはおれの身勝手に思われたけれどそうじゃなかったあのときは今回は単純におれのせい全面的に徹頭徹尾おれが悪いほかのだれにも一ミリも非はないかかわったすべてのひとに大きな迷惑をかけて不快な思いをさせた不特定多数に出入りさせることは以前から考えていたやりたかったのは趣味の交流サイトのサポートじゃない読書や出版の価値をわかってくれるひとを増やしたかったそれだけだなのに趣旨や望ましい客層とは真逆の企画を深く考えずに受け入れて気がつけば大切な場所を明け渡してしまっていたそうなることくらい予測がついたろうに二度あることは⋯⋯というけれどこれで最後にする前からおれを知っているひとはまたやってるよあのひとはいつもそうだそういうひとなんだよというだろうその声を否定できない公開停止のお詫びメールを全員に送った返信は無用である旨を書き添えたにもかかわらずほとんどの方がすぐさま親切で丁寧な返信をくれたもうしわけなく思うとともに創作を評価経済の交流ツールとするふつうのひとたちの社会人としての能力の高さに打ちのめされた社会不適応の人格破綻者であるおれといかに異なることかいちばん多くいいねがついたやつだけ最初から最後までひと言の挨拶もなかった社会的価値の高いそんなやつに利用されるだけされた気分で落ち込むどうしておれは健常者のようにやれないのか脳の障害さえなければTwitter は退会した30 日の猶予期間のうちに検討して必要があれば再開するいずれにしても他人とかかわるのはもうやめよういま連載を頼んでいる方々で最後にする現実におれは有害で迷惑な人間だがそうありたいわけじゃないましになりたいそのためなら AI に魂を売るのも厭わない

  AI の自動生成による The Beatles のフェイク音源を聴いた再生しているあいだは楽しんだいい曲じゃないかとまで思った英語の歌詞がわからないせいもある)。 ところが聴き終えて時間が経つにつれ揺り戻しみたいに気分が悪くなった人工甘味料を使った口当たりのいい酒で悪酔いするみたいに芸術は技術でしかないから人工的に再現可能だと思っているなのになんなんだろうこの後からずっしりとくる不快な疲労うわべを取り繕う模倣だけが巧みで他者への共感をもたず支離滅裂な独自の規則に固執する人間というのが世の中にはいる踏みつけにされて支えるよう朝日が母親たちに要求した連中だおれにも流れている血だかれらと話したあとの気分にすごくよく似ているそんな友人ならば要らない父親や弟やパワハラ加害者たちのようなこれまで出逢ってきた大勢のひとたちで充分だおれはもう搾取されたくない害をなす側にもまわりたくない休日の公園を楽しむ家族を脅かすつもりはないんだほしいのはエコーチェンバーであってなんでも吸い込み何も帰ってこない虚無ではないいまの AI がそんなものでしかないならば諦めて本業では心を殺し細切れの休日に身のまわりへ目を向けたいいろんなことを整理してちゃんと管理できるようにしたい部屋の掃除家具や家電や身につけるものの手入れウェブサイトやサーバ筋トレ走ること読書


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。