D.I.Y.出版日誌

連載第41回: わたしの身体とあなたの歌

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
03.07Tue

わたしの身体とあなたの歌

子どもの頃体育が苦手でした本来はそれぞれの発達度合いによってグループ分けしわたしのような子どもにはまずルールを読みとって従うなどの基礎的な社会スキルの訓練をさせる必要があったはずです体育はその上で行うべき応用科目でした身体の相互作用にもとづいて成立する高度なコミュニケーションを学ぶ場だからですおそらくいまの学校教育でもそうした観点は抜け落ちたままでしょう社会的に有利な身体であることに慣れすぎて異なる立場にまで考えが至らないのかもしれませんどんな身体にも尊重されるべき人間性が備わっていますさまざまな人間が互いの価値を損なわずに折り合いをつけていく方法が見出されねばなりませんそれは教育でしか得られないものです

社会において個人の身体は往々にして人間性とはかかわりのない文脈ではかられます暴力の被害者を黙らせようとしたり被害者に罪を負わせたりするのは紛れもない暴力です自分らしくあることが社会生活で制限されるのは望ましくありませんし自分自身の持ち物である身体を他人に値踏みされる謂われもありません社会的に抑圧された身体の当事者がみずからの身体性で抑圧者を圧倒しエンパワメントするのは健全なことですしかしながら大勢の異なる人間が折り合っていくためには実際問題制限しなければならないこともありますそのように運営される社会で生きる以上身体を肯定する前提に他者の視線が求められるのも避けられません従ってエンパワメントであれなんであれ現実に身体性を堂々と主張できるのは社会的に美しいとされるひとびとに限られるように思えます

わたしが身体性を主張すれば逆にひとびとの権利を脅かすでしょう身体性にまつわる逸話から説き起こされた記事に言及すること自体がそのような暴力と見なされてもおかしくありません容姿にせよなんらかの能力にせよ他人から肯定的な評価を受けたことがないので社会的価値を通貨として成立する身体の取引が実感として理解できません体型を変えれば自己肯定感を向上させられるのであればその努力や成し遂げた価値は肯定されるべきですまた他人の視線で惨めになるのであれば極力だれともかかわらずに生きるのもひとつの方法でしょう社会的に見てあらゆる能力や価値のない身体の持主がそうであっても人生を肯定する方法をずっと考えています


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。