D.I.Y.出版日誌

連載第367回: 悪意と遺伝

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2024.
01.26Fri

悪意と遺伝

メディアはあたかも社会のひずみが生んだ被害者であるかのように社会病質に肩入れする取材によって自己愛的な被害者意識に感染したのかもしれないがどうあれこれは卑劣な二次加害だおれの父親や弟のような社会病質が虐待で生まれると思ったら大まちがいだあれはまぎれもなく生まれつきだ弟は両親からチヤホヤされて育ったが生まれつき父とおなじだったその過程をおれは実際に見ている父だってやはり社会病質である母親に溺愛されて育ったしその血は地域社会に支配的にふるまい生き神様と呼ばれた曾祖母から受け継がれたものだ一方でおれは社会病質である父と統合失調症これも祖母からの遺伝だったの母に虐待され人生をめちゃめちゃにされたがああはならなかった精神科を梯子して三人の医者に診てもらったからまちがいない社会病質ではない証拠に共感能力を技術として要求される職業で生計を得ているそもそも共感能力がなければぼっちの帝国GONZOは書けない

 法律はおれの父のような社会病質を想定しないそのように脆弱な社会にあって裁判は連中を主役とする舞台をお膳立てするようなものだ被害者とその遺族は自己愛的な世界観にとりこまれ道具立ての一部にされ脇役として貶められる異常者の自己愛に被曝させられて不衛生な精神が伝染する悪意に生涯を支配される被害者も遺族もメディアも世論も対人操作欲の養分にされるそのようにして社会病質は歪んだ認知をより堅固にする死刑は美しい自己像や被害者意識を揺るがすどころか強化させるだけで罪を理解させるどころか向き合う必要のない場所へ逃してやることになるこれでは裁きでも刑罰でもなくただの褒美だしかし民主主義社会の正当な手続として裁判は必要だし罪と向き合わせるには認知の歪みを矯正するしかないがそのような刑罰は実在しない何をどうしたところで結局は連中の利益にしかならない殺害は被害者を増やさぬための次善策でしかない

 将来的には遺伝子治療が可能になるかもしれないだが現時点では夢物語としてすら語られようがない生まれつきの人間性を遺伝子の欠陥と見なして医学的に矯正するのは倫理上の問題があるかといって犯罪を重ねられてから裁いて死刑にしても遅いしひとり殺したところでおれの父のような個体はほかにいくらでも発生するきりがない認知の矯正も遺伝子治療もできぬなら共感能力に欠陥を持つ個体が生じるはしから殺害するか最初から生まれないようにするしかないがこれもまた優生思想そのものであり社会病質とおなじ邪悪に落ちるようなもので許されないとかく民主主義社会はおれの父のような悪意に脆弱だだからせめておれのような社会病質の遺伝子を持ちながら幸いにも発現しなかった個体がひとりひとりの自由意思でその遺伝子を次世代へ伝えないようにするしかない

 八つ墓村めいた家庭内独自の因習があるデジタルデバイドの最底辺で育ったそうした家庭を容認するとともにそこで虐待される子どもを排除した家父長制を憎んでいる。 「ニーズがないから笑い物にされ淘汰され」、 どこにも属せない爪弾きに仕上がったそうでなければ努力相応に愛され成功していただろう最低限の家電すら知らずに育ちせいぜい努力して這い上がってみたところで遅く常識を知らない無能な中年として蔑まれながら年収 200 万の感情労働にしがみついている人権や民主主義や自由意思を憎むひとたちは日本だけにいるわけではないネタニヤフもプーチンもそうだしトランプは再選するだろういまはそうした政治家や企業にとって都合のいい時代だ見せたいものを見せるのがソーシャルメディアでありだからソーシャルメディアは本質的に自由意思を淘汰する性質から逃れられないだからこそ兵器として利用されているし今後は AI がより効率のよいものとして取って代わる

 日本人の多くは自由意思を憎む決めるのが億劫だからなんでも決めてもらえるのが楽だから権力の尻馬に乗って弱者を淘汰するのが好きだからだからソーシャルメディアに馴染めなかったり AI を危惧したりするひとを情報弱者扱いするデジタルデバイドの勝ち組からしたらたしかにおれはニーズのない情報弱者だそれは事実だ合っているでもなぜいつまでも弱者を淘汰する側にいられると思うのかほんとうの勝ち組はひとにぎりの企業や政治家でしかない弱者を笑い物にして淘汰してさえいれば勝ち組でいられるかのような安心感は幼稚な錯覚にすぎない権力はその甘えを利用するソーシャルメディアや AI を使ってつけ込むおれの言っていることが理解できない連中がうらやましいあるいは実際に最後まで勝ち組でいられるのだろう高みから勝手なことを言い散らして生涯を終えるのだ

かなり書きなおして改版した


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。