杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第13回: 探偵はボーリング場でタップする

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2016.
12.27Tue

探偵はボーリング場でタップする

Hulu でバッファロー'66を見ました一年ぶりです。 『さらば愛しき女よにとてもよく似たつくりであることに気づきましたヴィンセント・ギャロが大鹿マロイでクリスティーナ・リッチがマーロウですマーロウはたまたま事件に巻き込まれますがクリスティーナ・リッチは出会い頭から加害者に強い関心を抱きますあたかも夜に女の悲鳴を聞けばなんだろうと見に行かずにいられないマーロウのように

物語の構造も抑制された喜劇的な語りもハードボイルド小説にとてもよく似ています狂言回しによって謎が解き明かされるという意味ではこの映画は探偵映画といっていいでしょうチャンドラーの探偵は作中で延々と事件を要約しつづけます要約探偵とあだ名をつけたくなるくらいです行動している最中は探偵はなぜ自分がそのような行動をしているかを読者に説明しない代わりに要所ごとに警官や依頼人をつかまえてそれまでの出来事をくどいほど要約してみせますこの映画でもそれと似たところがあります友人に電話して手がかりの要約をしてみせるのです語りが抑制されているのでわかりにくい点もあり今回は革ジャンをどこで手に入れたかようやく理解しました車内でクリスティーナ・リッチを罵倒して窓に流れる雨はおそらく彼女が泣いたことを示している)、 後ろめたくなって上着を貸し代わりのを買ったんですね

優れた探偵小説がそうであるように喜劇としても巧みです菜食主義者なのに肉臓物?料理を食べさせられた復讐としてチョコレートアレルギーの加害者にホットチョコレートを再三せがむ皮肉やシーツの皺をやたら気にする神経質な加害者の、 「触るなのノリツッコミなど優れた場面がいくつもあります物語の表面上は自己愛者の歪んだ認知からストックホルム症候群を描くようでいながら実際には加害者を滑稽に対象化しており必ずしも彼の自己愛を無条件に正当化してはいません妄想の犯行シークエンスのお笑い芸人さながらの歪んだ顔や車の運転もできずシーツの皺を気にするばかりで自分が拉致した被害者が女性であることに怯える描写など突き放して笑いものにしているといっていいくらいですもしもこの映画が自己愛的な認知の歪みとして断罪されねばならないとしたら探偵が実際には語り手狂言回しである可能性を容易には観客に気づかせないためかもしれません

この映画で最大の謎は動機ですハードボイルドの探偵は事件に自らを投影しますだから謎の解決が物語の必然となるのですクリスティーナ・リッチの加害者への態度は登場シークエンスから結末の止め絵まで終始一貫しています怒りをたたえた眼で彼の背後にあるものを見据えている彼の人生をそのようにした世界に怒りを抱いているのですそれが彼女の動機でありむしろ自分の怒りのために加害者を利用するかにさえ見えますその義憤はどこから来たのでしょう何が彼女の人生をそのようにしたのかその謎は謎のまま残されます


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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