D.I.Y.出版日誌

連載第375回: 2024年総括

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2024.
12.31Tue

2024年総括

半年放置していたいろいろありすぎた義務感だけでこれを書いているさっさと終わらせて映画を二本観たいアマプラに無料で来ているオッペンハイマーとマンションのケーブル契約特典で二ヶ月無料だった Disney+ の Let it be だ

 マンションの話を先にする前回の投稿で隣室に蟻が大発生したらしいことを書いたその前月にエアコンの水漏れで管理会社を呼んだついでに床の不陸と網戸の破れと浴室換気扇の故障と押入扉の不具合と洗濯のたびに排水口から水が溢れることとそのせいで床が腐ってぶよぶよになっていることとトイレの水がたまに止まらなくなることあとは忘れたが部屋の不具合をあれこれ訴えたエアコンは管理会社が訪れる前に自力でドレンホースをポンプで清掃して直した換気扇と網戸は交換してもらったしかしどうもその話とそしてたぶん隣室の蟻の件とで大家がうんざりしてしまったらしいある日帰宅すると取り壊しを告げるビラがアパートの外壁に貼られていた小説に書くとだいたい現実になる2005 年にPの刺激で震災を書いたら六年後にあのざまだ幸運にもぼっちの帝国の明日香とちがってビラに気づけた小説を書くためにたまたま取得していた有休を使って部屋を探し近所のマンションにどうにか移れたこの有休はどうも職場で不信感を招いたらしくて辞めるのかと思ったとあとで上司から小言をいわれた引越の詳細は Mastodon にさんざん書いたので気が済んだここではくり返さない前回の投稿で金がない旨をくどくど書いたが退去費用はもらえなかった本の装幀をつくるのに使った iPad Pro やら古い HKKB やらを売って六万本や CD を売って二万帰ってきた敷金が四万弱それでも焼け石に水でいくつかの家電を買い換えたり引越業者を雇ったりしたのでひどいことになった賞与と月給がふりこまれたが瞬時に蒸発した

 そんなことになるとわかっていたらキーボードなんか買い換えなかった台湾 Tex 社の修羅にあれこれカスタマイズして六万費やし誕生日に早めの夏休みをもらってCloud9に取りかかった十年使い倒した MBP Late2013 が限界だったので引越を機に Mac も新調したMac mini M4 梅十年後を見越してメモリだけ 24GB に増設結果的に執筆環境を一新することになった

 蟻事件の前月、 『Cloud9を書きはじめた頃からアトピーが三十年ぶりに再発した原因はわからないシャンプーやボディソープを低刺激のものに替えたが改善されない最初はワイシャツの袖が血で汚れる程度だった急速に悪化して全身に広がった最初は市販薬でごまかしていたが金がかかりすぎるし悪化する一方引越と並行して皮膚科に行った処方薬を塗りたくっているがさして改善しない同時期に詰め物がとれた歯科医によれば歯周病が進んでいるという大工事になった歯石ばかりか歯肉まで大いに削られた引越騒ぎで最近はあまり行けていないが通常の歯ブラシとデンタルフロスと歯間ブラシと二種類の歯磨き粉を日々駆使することでかなりましになった

 走るのと筋トレはそれなりに継続している筋トレは毎日レッグレイズクランチサイドレッグレイズバックエクステンション各百回だけは欠かさないデクラインプッシュアップやダンベルリフトダンベルカールスクワットリバースプッシュアップはさぼりがちだ米を喰っていたときには薄らデブだったジーンズのウェストがきつかったやめたら改善された去年穿けなかった Levi’s のコーデュロイ 519 が穿けた新居に姿見がついていた思ったよりましになっていたあとちょっと筋肉がついてあとちょっと体脂肪が落ちればと思うたぶんむりだろう

 引越はほとんど自力でやった荷物を手にばかみたいにせかせかと往復したそのくらい近所だお気に入りの真空管アンプは壊れて六千円の中華デジアンに買い換えた腰痛になり鎮痛剤の湿布を貼ったあるいはアトピーはそうした薬剤のせいかもしれない腰痛とアトピーのほかはたいした病気はしなかった風邪もひかなかったこれはいいことだろうマンションでの暮らしも気に入った設備が現代的になり贅沢になったしかし金がないとか十六年暮らしたアパートを取り壊しで追い出されるとか三十年ぶりのアトピー再発とか本業のこととかおれの人生いろいろと限界だよなぁと思う両親もそろそろ介護とか死ぬとかの時期だろう大昔に妹に押しつけて逃げてきたけれど

 そもそも遺伝的にも生育環境的にもおれは社会でやっていくだけの能力を手に入れられなかったというか逆にどうあがいても社会に適応できなくなるような教育を受けた両親の努力は実ったおれは人間性に問題のある無能だやれるのは小説を書くことだけこのおれの人生にしては贅沢なあたらしい部屋でだれとも会わず小説だけ書いて生きていくことはできないものかそうでない現実のいまの生活がむしろ不自然に思えるむりがあるだから憎まれ蔑まれているのだ

 月イチで飲む友人とは今年も欠かさず楽しい時間を持つことができたコロナ禍にはおれが怖じ気づいて会わなかった時期もあったから今年は十二回まっとうできてよかった区役所での罹災証明発行のバイト以来だからかれとの関係はもう十三年もつづいている人生でもっとも長く継続できた人間関係だこれからも楽しくやれたらと思う

 そのためにも来年は書いたものをどうにか金に換えたいこの十五年ばかりさんざんやってきたが自主出版の限界が見えた書いて編集して装幀して出版して今年は売るところまでやったそれだけやって得たのは貧困だけだいま書いているCloud9はおれをましな舞台へ連れて行ってくれると信じる2004 年のKISS の法則でもその翌年のPの刺激でもおなじことを思ったのであてにならないがしかしまぁ今度こそはと夢見るくらい許されるだろう宝くじなんか買うよりは努力のしようがある少なくとも錯覚を信じていられる

だれも知らないウェブサイトのだれも読まない記事でだれに向かっていうのか自分でも滑稽に思えるがこんな記事だからこう締めくくろうよいお年を


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。