杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第25回: 裸足のエスキモー

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
01.14Sat

裸足のエスキモー

既存のニーズ以外の価値があるなら見せてほしい笑いものにされ淘汰されるぞとわたしに指を突きつけたジャーナリストの言葉はただひとつの正しい感じ方以外を滅ぼそうとするものでしたそのような正しさに従えば出版は死にますあるいは生を許されたことなど一度としてないのかも淘汰される淘汰されるそんな身勝手は世間が許さないぞと脅されながらも残る言葉は残るのでありあるいはあの脅迫はそれぞれの感じ方には滅びてほしいという儚い願いであったのかもしれませんロック音楽に社会的に認められたニーズがなくそれどころか禁じられていた国において闇に刺青がうっすら浮かぶアルバムが命がけで隠れて聴かれ無血革命に力を与えたことはよく知られていますそのグループには来月名誉ある舞台で特別功労賞が授与されるそうです

ひとびとが情報にお金を出さなくなったといわれます価値ある情報をわずらわしく感じるひとが増えただけなのではないでしょうかまともな値付けがされたものには価格に見合った内容が予想され読むのに気構えが要ります現代人は価値のないどうでもいいものを気軽に消費したいのかもしれません豊崎由美さんはお金にケチ時間にケチ手間にケチこの3つのケチは面白いことを何ひとつ生まないとおっしゃっているけれどそもそも面白いことを憎むひとが増えているような気がします受け入れるのに度量や経験が要求されるからです受け入れる側の器が試されるようなそれぞれの人生に応じたさまざまな受け止め方が求められるコンテンツは現代では忌み嫌われ既存のテンプレートに収まるわかりきったコンテンツが喜ばれますみんなと同じ感じ方をすればよいから自分だけの読み方をして疎外淘汰されたりせずに済むから

自分のめざす先が明確でさえあればいかに実現するかだけが問題になり重要な相手でないかぎり他人に何をいわれようがどうでもいいはずですまずはやりたいことを明確にしようと思いました人格OverDrive がやろうとしていることは ZINE やリトルプレスに近いものになりそうな気がします音楽でいえば圧縮音源やストリーミングどころか CD ですらない手作業でダビングするカセットテープですかつてダニエル・ジョンストンはダビングすら知らずにすべてのテープにひとつひとつ吹き込んだという噂ですが極端な話そのようなものです実現性を除外して夢を語るならばブックカフェやセレクトショップ中古盤屋のような店舗を販路とするのが理想です販路や売場まで設計したい気持がありますエスキモーに氷を売るとか裸足の村で靴を売るとかだってありだと思いますしそもそもそういうこと全部がどうでもいいというのもあります人格OverDrive の活動でお金は指標にはなり得ても目的にはなりません。 「面白いことをやれたらそれがいちばんなのであってだれかの決めた勝ち負けとはいっさい関わりたくないつまらないひとのつまらない理解に収まるつもりはありません暴力による挫折を訝しい夢想などと指さして笑うような人間になってまで世の中を渡りたくない

さしあたってやはり電子版の配布は epub がいちばん自由に感じますたとえば Wilco はデジタル版の音源は無償配布に近いかたちで公開し公演やヴァイナル版や物販で収益を得ているようです人格OverDrive の本もそのようであっていいepub を無償配布しオンデマンド版や関連グッズをお布施用にするあるいは中核コンテンツとしての独自作品は無償で公開しオンデマンド版は実費のみ関連グッズも実費かデジタルデータの無償配布のみとしてつながりのある本を売るつまり書店を開業しノベルティとして独自コンテンツを配布するという形態もあり得ますむしろほかの本を主体にしてしまうのですしかし実店舗ありにせよオンライン書店のみにせよ経営に適性はありません商売の要素が少しでも関わることからは全力で逃げます社会的能力すなわちゲームのスキルが求められるからです世渡りのゲームをやりたいのではありませんでは何をどうしたいのか具体的な次の一手はわかっているのはどんなに断罪されようが別の人間にはなりたくてもなれないということです


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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