ヴァリス
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ヴァリス

友人グロリアの自殺をきっかけにして、作家ホースラヴァー・ファットの日常は狂い始める。麻薬におぼれ、孤独に落ち込むファットは、ピンク色の光線を脳内に照射され、ある重要な情報を知った。それを神の啓示と捉えた彼は、日誌に記録し友人らと神学談義に耽るようになる。さらに自らの妄想と一致する謎めいた映画『ヴァリス』に出会ったファットは……。ディック自身の神秘体験をもとに書かれた最大の問題作。


¥1,034
早川書房 2014年, 文庫 432頁
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著者: フィリップ・K・ディック

(1928年12月16日 - 1982年3月2日)米国の作家。彼の小説は社会学的・政治的・形而上学的テーマを探究し、独占企業や独裁的政府や変性意識状態がよく登場する。薬物乱用や偏執病・統合失調症や神秘体験が『暗闇のスキャナー』や『ヴァリス』に反映されている。

フィリップ・K・ディックの本
2017.
02.01Wed

ヴァリス

新訳版ヴァリス読了こんなにも胸をえぐる小説だったとは旧訳を十代で読んだときは衒学的なところが凄いんだと大人たちに聞かされて首をかしげながらもそういうものかと素直に感心しました二十代で再読したときにはよくわからないけれども何かがずしっと迫ると思いました長い年月がすぎて人生のさまざまなことが変わってしまった今新しい訳で読み返すと衒学的に装われた部分は痛々しい逃避だったことがわかりました危うげに見えながら案外技巧として手綱がとれていることも知りました

狂った主人公は同様に狂った男女に妄想を共有しようと誘われヒッピー・コミューンの農場のような場所へ招かれて虐待されている幼女と出逢います息子に対する愛だけはまともだった彼は自分もまた常軌を逸していたことに気づき正気に返りますその転換が、 「もうひとりの自分として妄想を対象化した主人公と語り手との境目があいまいになりかけた時点で生じます狂気を鏡に映されて一度はわれに返った主人公/語り手は魂を救ってくれた幼女がヒッピー・コミューンの妄信によって殺されたことを知り妄想に逃げ戻ります

ディックはキャリアの初期においては語るより見せる書き方をしていたのですがときとしてヘミングウェイばりといえるほどに)、 徐々に具体的な描写よりもモノローグが増え晩年はきわめて思弁的な、 「見せるより語る式に移行しますまた彼の小説作法はしばしば行き当たりばったりで退屈に陥るとそれまでのプロットを放棄して物語を立て直すくりかえしですまさにチャンドラーのいう銃を持つ男を闖入させろですこの小説ではそうした書き方が意識的にか経験による技術かはわかりませんが語り手が逃避に傾くと具体的な行動を起こさざるを得ないような事件が起きて現実に引き戻されるという効果に昇華されていますそしてチャンドラーが銃についてチェーホフの言葉を引用したように物語は必然としてやりきれない結末を迎えます

ヴァリスは救済をめぐる物語です狂気の症状もしくは人格上の欠陥として他人を助けたがる主人公/語り手はどうして幼女を救わなかったのでしょうか彼は試みさえしませんでしたそこには魂を救済するはずの神が一匹の猫をすら救わない事実が重ねられます幼女はみずからを犠牲にして主人公たちを救いましたそのことを知っていながら彼はただ逃げた友人は猫のことを思い出して引き返しますが主人公/語り手にはそのときの記憶すらない人生の残酷さ猫や子どものような傷つきやすいものに対する運命の暴力に対して主人公/語り手は無力ですその事実を思い知らされたとき彼は傷つきやすいものを見棄てて狂気に引き籠もります

あるいは主人公/語り手のような人物にとって他者を見棄てることこそがみずからの救済となり得るのかもしれませんつまるところ猫も幼女も身勝手な恋人もみんな死んだのであり残された者は生きねばならないのです共に暮らした女たちには別の言い分があるかもしれませんが


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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