若林 理央

知らないともだち

第1話

書いた人: 若林 理央, 投稿日時: 2020.05.24

 私の中には大きな空洞がある

 最近昼食を食べた後インターネットの動画を観るのが日課になっている最新の話題に関する動画視聴者を笑わせにかかる動画…画面上流れる映像を観て自分の感情を動かさなきゃと身構えるしかし私の顔の筋肉はほとんど反応しない次にスマートフォンでインターネットの記事を見る目に入った文字は私の脳を素通りしていく
 これが午後から夕方までのルーティーン
 
 一度だけ夫に尋ねたことがある私が無気力になったのはいつからかと
 夫は五年前に知り合った頃からそうだったと答える当時夫にとっての私はけだるい雰囲気の女性でイベントコンパニオンという仕事をしていたこともあって高嶺の花に見えていたようだ
あのときはこんなきれいな人と付き合えるなんて夢みたいと思ったんだけどな
 夫はため息をつく

 私と夫の視線が重なることはほぼないテレビを見ながらふたりで食事し順番にお風呂に入り寝る家族である夫と会話が少ないのは気楽だ
 子どもが欲しいと思ったこともないし夫も私に求めてこない
 淡々と日常は過ぎる休日も夫はずっと家にいない私もどこに行くのか聞かない
 ただ興味のない動画頭に入らない文章を読むルーティーンを平日と同じように繰り返す

 こんな私でも好きなことはいちおうある堅いフローリングの床に寝ころび頭や背中からかすかな痛みを感じること目の前に広がる変わらないクリーム色の天井を見つめることいつかはばからしくなるはずの何の役にも立たないことを私は大事にしている
世の中のすべてのことはいずれ飽きるから生物は死ぬようにセッティングされてるのかも
 なにげなく夫にそう言ったとき夫は私の言葉を独り言として処理し目をそらした

 食欲睡眠欲排泄欲
 私がまだ人間であることの証拠のように生理的欲求が自分の中で存在しているのが不思議だ性欲は私の体から省かれているようだけど
 性的欲求をインストールするにはどうすれば良いのだろう
 床に寝ころんで天井を見つめる日々は夫に見捨てられれば失う結婚前夫は性欲をかきたてられて私に惹かれたのだし恩返しとして私も性欲を得なければならない
 考えを重ねたあげく毎日のルーティーンのついでに夫のアダルト動画を見始めた男の上で女が動き時にはそれがさかさまになり肌と肌のこすれ合う様子がまぶたにこびりつく一度それを見て吐き、 「私の中には何もないわけではなかったと安心した
 直後アダルト動画を見ていることが夫にばれてパソコンのパスワードを変えられた

 今の日常とこんな自分に嫌悪感を抱くべきだろうかなぜ私は自分の人生を捨てられないのだろう

 その日の午後二時頃私はいつものように床に寝そべり天井を見つめて過ごしていた毎日見ている天井に私はなつかしさも感じている子どもの頃にどこかで同じような天井を見たことがあるのかも知れない
 そんなことをぼんやり考えているとインターホンが鳴った


雑誌とWebで取材記事(漫画家・外国人・企業)や書評を書いています。好書好日/ダ・ヴィンチニュース他。 執筆実績 https://www.wakariowriter.work/entry/portfolio波乱万丈な人生はエッセイにhttp://note.com/wakario 編集者と日本語教師もしています。読書とフランスが好き。
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