序盤は読むのがつらかった。 この国ではいまだに黒塗りの顔が楽しい演し物だと思われているし、 自由意志に対するヘイトが強い。 個人的にも過去になっていない。 選び取る人生がひとを人間にする。 あるいは選び取れると信じることが。 そのことを知っていたがために罰されて育った。 抗うたびに罪を思い知らされた。 追っ手がいつ現れるかと怯えながら逃げつづけている。 いまだ所有されている。 安住の地はない。 徐々に這い上がり頂点に達したところでまた絶望へ叩き落とされる。 この物語ではそのくりかえしが山場へ向けて盛り上がる。 地獄から逃げ出して自由な土地にたどり着くが、 その幸福は偽りであり、 一瞬でも人生を自分のものと信じた罪が罰される。 かと思いきや助けられてまた逃げる。 しかしその自由はかりそめであり、 降りる駅まで乗り合わせただけであるかのように、 逃亡幇助者らはいずれ殺される。 その構造に別の繰り返しが組み合わされる。 殺された人物がどんな思いを抱いて生きたかが語られる。 あるひとつの死が伝えようとした事実が山場で語られる。 最後に手にした力、 伝えられなかった希望は自由意志だった。 選び取れると信じることの持つ力だ。 主人公が序盤で二度、 かいま見せる力である。 それはすぐさま無残に踏みにじられる。 しかし死んではいない。 その蒸気機関こそがこの物語を終着駅まで動かす力となる。 その魔力を信じた男が彼女を服従の外へと連れ出す。 助けたひとびとは次々に殺される。 主人公は流されるばかりに見える。 しかし実際には彼女自身の力だった。 叩き落とされ踏みにじられてもそのたびに這い上がる。 その積み重ねが追っ手の力を奪い、 彼女を強くした。 自身の蒸気機関が彼女をそこまで連れてきたのだ。 結末でついに主人公はだれの助けも借りずに追っ手を倒し、 選び取った鉄路を進む。 そのようにして人生をつかみ取る。
ASIN: 4152097302
地下鉄道
by: コルソン・ホワイトヘッド
アメリカ南部の農園で、苦しい生活を送る奴隷の少女コーラ。あるとき、仲間の少年に誘われて、意を決して逃亡を試みる。地下をひそかに走る鉄道に乗り、ひとに助けられ、また裏切られながら、自由が待つという北をめざす――。各賞を総なめにした世界的ベストセラー、ついに刊行!
¥2,454
早川書房 2017年, 単行本 395頁
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線路はつづくよどこまでも
読んだ人:杜 昌彦
(2018年01月26日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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