D.I.Y.出版日誌

連載第37回: Twitterよもやま

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
02.23Thu

Twitterよもやま

Twitter を使っています本や音楽を好むひとたちをフォローして彼らの言葉に共感したり感心させられたりして愉しんでいます脳科学者の言葉と称するものがリツイートされてきました。 「本当に創造性を育む教育をしたいのだったら、 『先生を疑え教科書を疑えって教えなければならないとのこと実際にそのような教育をすると子どもは混乱し創造性どころか最低限の社会性すら身につけられず不幸な大人に育ちます本当に創造性を育む教育をしたいのだったらまずは最低限ほかの子どもと同じ能力を身につけさせることですそのためには他人と同じことをさせてあげなければいけませんその上で金と常識の許すかぎりやりたがることを自由にさせてあげることです

脳の発育で思い出しました80 年代にはテレビゲームで遊ぶと脳にダメージがあるとか学力が低下するなどといわれました追跡調査は行われたのでしょうか体感的にはゲームに親しんだ子どもほど成人してから社会的に成功した印象がありますむしろ現代社会ではゲームでつちかった能力が要求されるように思います悪影響があると仮説を立てたのであれば利用頻度ごとにグループ分けして継続的に統計をとる必要があったはずゲームについてはすでに数十年の蓄積があるはずです当時の批判者たちは追跡調査を行ったのでしょうかそもそもその場かぎりの調査でさえまともに行われたのか怪しいと思います

だれもが当然としていることを知らずに育つと苦労します特にこの国の社会では他人との違いが多いほど生きづらくなります。 「クラスで流行っているといった実際にはローカルな事象と社会全体の傾向とは区別する必要がありますが基本的にはもしも多くの子どもがスマートフォンを使う時代であるならば経済的事情さえ許せば従ったほうがいいでしょう大人は自分の判断に責任を負えますが子どもはそうはいきません経済的な事情であれば問題ありませんがそういった子どもは数多くいるので汎用性が損なわれることはない)、 大人の信条によって子どもの人生が左右されるのは好ましくないと思います偏った考えを押しつけられて育った子どもの多くはその後の人生で生きづらさを抱えることになりますまぁ何が一時的な流行で何が社会的な常識であったのかは歳月を経た結果でしかわからないのですが⋯⋯いずれにせよ先生や教科書を疑うのは成人し判断や選択に責任をとれるようになってからでいいと思います

Twitter ではまた幼児向けと思われるアニメも話題になっていました肯定的なバズワードをたびたび目にし愉しそうに感じて調べたところ意思疎通の断絶めいたものを感じて考え込んでしまいましたなぜ成人女性の体型に幼児の顔やぬいぐるみのような衣裳幼児的でありながら乳房や腰のくびれは誇張するを着せて子どものような言葉をしゃべらせるんだろうどうして男の子じゃないんだろう何よりそうしたコンテンツを女性たちも喜んでいる六年前に若いひとたちとカラオケに行って人気アイドルグループの PV を見たときにも似たことを感じましたあらゆる要素がポルノグラフィーに異様なほど寄せてあるんです現代の子どもたちは性的に搾取されることをかわいいと教わって育つのかと驚きましたそれが女の子の価値だと

地下鉄の構内におかしなポスターが貼ってあったのを思い出しましたアニメ風のイラストで駅員さんの格好をした女の子なのですがやはり成人女性のからだに子どもの顔が乗っているなんとか娘と商品名のようなものが書かれていますもし仮になんとか息子という商品名で股間を誇張した成人男性に子どもの顔をつけた駅員さんのイラストがあったらすごく変だと思うんですよね⋯⋯そういうのは見かけたことがないなんで女の子だけがそのように扱われるのか理解に苦しみますこの文章を書くために調べたらわたしが見たのはまだマシな部類でした誤って掲示が許可されたとしか思えないものがありさすがに顰蹙を買ったようです性的な視線によって誇張された身体に色情狂の表情をした子どもの顔が乗ったイラストでしたこれを公共の場に掲げるのは個人的には常軌を逸していると思います

判断力のある成人女性が自分の意思でポルノグラフィーに起源をもつファッションを愉しむのは自由です異性の視線や力関係とはかかわりなく自分の身体を使って自分が愉しむためにやっている尊重されるべき権利ですそれを異性との関係性にもとづく文脈で理解する媚と見なすのはそのひとを否定し貶めることにほかなりませんしかしながら子どもにそういう格好をさせ媚びるのがよいことだと教えるのは⋯⋯いやファッションの問題じゃないななんていえばいいのか判断力に乏しく力の弱い子どもであることを求めつつそれと同時に性的に搾取される対象であることこそが女の子の価値であるかのように社会全体が教えているように感じるんですそれが常識でありあるひとの言葉を借りるならニーズであり抗えば嗤われ淘汰されるそれが薄気味悪い

アニメやアイドルのような子ども向け商品が大人に搾取されることが女の子の価値であるかのような考えでつくられそのような価値観を子どもたちに刷り込んでいるのだとしたらそれはポルノ動画への出演強制と根はひとつのように思えますリツイートされてくるたわいのない話題をいちいち真剣に受け止めるのも愚かしいでしょうしせっかくみんなが愉しんでいるのにこのようなことを考えるのはいけないことなのだろうなとも思うのですが⋯⋯あるいはそのような感じ方のすべては狂信的な両親によって偏った教育を施され、 「ニーズという名の社会性をついぞ身につけられなかった老人の哀れなたわ言にすぎないのかもしれませんタイムラインはさまざまなことをわたしに教えてくれます


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。