うへ

大人って歯も上手く磨けない

連載第2回: 明日のバナナ

うへ書いた人: うへ, 投稿日時: 2020.06.12

 何度目かのスヌーズで目を覚まし、「今日はダメそうだなあ…」と、薄らぼんやりした頭で考える。これはいつもの二度寝三度寝コースだ。そして、それが意味するところは「体調不良」である。
 次に目を覚ますのは、九時前十分。このときばかりは、再び設定したアラームの一回目で一時起床する。
 「さて、と……」私は早速仕事に取り掛かる。業務開始時間である九時を待たずして仕事に取り掛かるとは、なんて殊勝な心掛けでしょう。
 「おはようございます。体調不良のため、お休みします」送信っと。今日の業務は完了である。なんてスピーディーな仕事ぶりでしょう。我ながら惚れ惚れする。
 「けしからん!」という声がどこからともなく聞こえてきた。いつもの幻聴だ。まあまあ、そんなに怒らないで。高血圧なんでしょ?体に毒よ。
 なにもまるっきり嘘はついていない。体調がいつもの「優等生」から「不良」になっただけのことだ。そんな日もある。「そんなの屁理屈だ!」という立派な社会人から厳しいお叱りが飛んでくる。
 ではこの際だからきちんと説明して進ぜよう。まず、最大の理由となるのは、起きた瞬間からすごく眠かったことだ。これは仕事中にうとうとして十分くらい座ったまま寝るやつだ、と自覚できたので、この睡眠の続きを中断してはならぬ、という思いを大切にした結果、体調不良という欠席理由を苦渋の決断の末、述べたのだ。のんのん。それだけではないよ?そんな理由だけで休むなんてのは、社会人としてどうかしてるぜ。ってなもんで。
 そう。もう一つのちゃんとした理由。それは、明日のバナナだ。私は毎朝、リビングルームを訪れたくないばかりに、朝食はバナナと決まっている。毎日近所のコンビニで仕事から帰宅するついでに、翌日のバナナを一本だけ買い求める。毎回レジ打ちを担当してくれるグエンさんは、私のことを「また来たよ、バナナマン設楽」と心の中で揶揄しているかもしれず、それがいつも気掛かりだ。そんなわけで、昨日はグエンさんに会いに行くのをすっかり忘れてしまっていて、バナナを買い忘れていたのだ。
 「バナナもないし、休むしかないや」。心の中のそんな呟きを自ら認識したときふと、一人妙に冷静になった。「バナナがないから休む」そんな理由で仕事を休んでいる人間は、この日本中のどこを探しても私一人だけであろう。なんてだらしなく、情けない人間になってしまったものか。鬱々とそんなことを考えているうちに、眠気はどこか遠くへ去ってしまい、当初予定していた睡眠の延長も、賃金を得る機会も自己肯定感も失ってしまった私はただ、天井にぽつぽつと付着した茶色いシミをぼんやり眺めながら、老後の病床で横たわる私もまた、このようにその時々で感じた、名状しがたい言葉や感情を発することもなく、その命を終えるのだろうか。
 次に目を覚ますと、時計は十四時を指していた。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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