父を撃った最後の銃弾は永遠に身中に留まる。 あらゆる場所やかかわりを通過しつづけた歳月にとどめを刺すように。 味わいのある文章といい練られた構成や伏線といい、 とてもよかったのだけれど、 優等生的な感じがして素直に絶賛できなかった。 巧い小説はきらいじゃないんだけどな。 巧さが鼻につく⋯⋯というほど悪くはなかったのだけれど、 素直に感じ入れなかったのは、 結局のところこの小説が、 親子の絆をうたいあげる性質の物語だったからだと思う。 きわめて上手に書かれたファザコン小説というか。 おれは異常者である両親に虐待されて育ち、 だれにも愛されたことがないので、 正常な人間の営みが理解できない。 そのせいかもしれない。 タイトルロールの 「父」 は、 育ちのせいでおもに犯罪で生計をたててきた人物なのだけれども、 おれの父のような社会病質ではない。 至極まっとうな考え方をする。 撃ち方を娘に教えるくだりなんか、 生きる術を伝えようとする真摯さがあって、 なるほど親が子にしてあげられるのは、 人間として次の世代にそのような態度で接さなければならないのは、 そういうことなのだと思わされ、 絶望を教えて生きる術を奪おうとしたおれの父との隔たりに気が遠くなる。 優等生の朗読する親自慢の作文を教室で聞かされたような気分だ。 この記事のために画像検索して、 著者の風貌がおれが想像した主人公の少女そのままだったのに驚かされた。 父親を愛している女性には響く物語ではないかと思う。 知らんけど。
ASIN: B08X49Z13D
父を撃った12の銃弾
by: ハンナ・ティンティ
12歳の少女ルーは、父とともに亡き母の故郷に移り住んだ。それまでは父とふたり、各地を転々としながら暮らしてきたが、娘に真っ当な暮らしをさせようと、父サミュエルは真っ当に働くことを決めたのだ。しかし母方の祖母は父娘に会おうとしない。母はなぜ死んだのか。自分が生まれる前、両親はどんなふうに生きてきたのか。父の身体に刻まれた弾傷はどうしてできたのか。真相は彼女が考える以上に重く、その因縁が父娘に忍び寄りつつあった……。ティーンとしていじめや恋愛を経験して成長してゆくルーの物語と、サミュエルを撃った弾丸にまつわる過去の断章を交互に語り、緊迫のクライム・サスペンスと雄大なロード・ノヴェル、鮮烈な青春小説と美しい自然の物語を完璧に融合させ、みずみずしい感動を呼ぶ傑作ミステリー。
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読んだ人:杜 昌彦
(2022年02月12日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『父を撃った12の銃弾』の次にはこれを読め!
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