ブッカー賞といえばピーター・ケアリーやグレアム・スウィフトが思い浮かぶ。読んでまちがいのない傑作、名作ばかりの印象があった。けれどもこれはまったく好みではなかった。ある女性についての物語なのだけれども、そのひとの姿がまるで見えてこない。ひとの人生や人格は結末のわずかなページだけであっさり片づけられるべきものではなかろう。鼻持ちならない気取った小説だと思った。若き日の恋人はたしかに鼻持ちならない女であったろうけれども、そういう女とつきあう主人公も大概だし、知的障害者の扱いにはあきらかに見下した感じがあって生理的になじめない。たしかにきれいごとではすまないだろうけれども、きれいごとではすまない側の人生に立つのが小説というものではないのか。人生のほとんどを社会の規範にのっとってそつなく生きてこられたひとが、そのようには生きられなかった人生に対して、完全に他人事として眉間に皺を寄せてみせるかのような、そんな感触がこの小説にはあった。恋愛小説ではあるだろうし、その気になって読めば推理小説のようでもあるのだけれど、それならもうすこし謎に深みがあってほしい。解き明かすことに何の痛みも切実さもない。関係のない他人からおもしろ半分で家族の弱みを暴かれたかのような気分になる。読んでいるあいだも不愉快だったし後味も悪い。ブッカー賞ねぇ……。
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終わりの感覚
ジュリアン・バーンズ 著
穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?―ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。
¥1,870
新潮社 2012年, ペーパーバック 188頁
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2018.
09.22Sat
(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『終わりの感覚』の次にはこれを読め!