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あの本は読まれているか
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あの本は読まれているか

一冊の小説が世界を変える。それを、証明しなければ。冷戦下、CIAの女性たちがある小説を武器に超大国ソ連と戦う! 本国で出版契約金200万ドル(約2億円)のデビュー作。2020年海外ミステリ最高の話題作!! 冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。──そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!


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書かせてやったのは誰?

読んだ人:杜 昌彦

あの本は読まれているか

男たちが押しつける理不尽な社会で女たちがしぶとく闘う話ナボコフがそうしたようにひとつの言葉に複数の意味をもたせる書き方がされている東と西女と男灰色の世界がずっとつづいてちょうど半分まで読みすすめると恋愛の話になりぱっと色鮮やかになるその色が赤であるところがまた皮肉残りもののボルシチを温めなおして待つ母親とかわずかな言葉で豊かなイメージを伝える文章がいい高学歴で専門知識があるのにタイピストをさせられている女たちの会話に真実味があってこういうのは男性作家にはなかなか書けないのではないか本書で描写される男たちは孤独なただひとりを除いてだれもかれもが身勝手だ唯一の例外である善人さえもが男であるがゆえに女たちの孤独に寄り添えない友人が次々に連行される気持がわかるかと実際に連行された側の女をなじる作家は女をそのような目に遭わせたまさにその張本人だ愛してくれる女が二度も投獄されるとわかっていればたとえ十年を費やした生涯最高傑作であれどうして出版できようか目の前のただひとりさえもまともに見ない人間の言葉になど何の価値もないわたし自身はボリス・カーロフ演ずる怪物のように恋愛から疎外されていてだれからも愛されないしそれゆえ愛する権利もないだから虚構であれ現実であれ愛の物語には共感できないところがあの映画が暗示したのとおなじ迫害を扱うからか本書で語られる愛に疎外感はおぼえなかったそれは圧倒的な孤独だ。 「わたしを知ろうともしない他人が、 「わたしがどうあるべきかを勝手に決める世界では恋愛さえもがわたしを冷たい絶望に追いやる愛する者を含む社会に人生を踏みにじられながらそれでもわたしを棄てないしぶとさそれはけっしてよくある孤独の否定、 「の押しつけなどではなくひとりひとりのわたしの孤独を尊重するものでありそれはとりもなおさず読書の本質でもあるそういう意味で想像の余地を残したあの結末は嬉しかった男社会によって自分自身であることを禁じられ男たちが決めた役割を演じさせられてそれでも心の奥底では女たちは自分自身であることをやめなかった自分自身でありつづけることがひとを強くするのだ

(2020年05月17日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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ラーラ・プレスコット

米国の作家。2016年に“Aedinosaru”でクレイジーホース・ヴィクション賞を受賞。2019年『あの本は読まれているか』を刊行。アメリカ探偵作家クラブ(MWA)主催の2020年エドガー賞最優秀新人賞にノミネートされた。

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