当サイト 「人格 OverDrive」 は独立出版レーベルでもあります。 いわゆるセルフパブリッシングの手法で出版しています。 かつてその訳語であった 「個人出版」 「自主出版」 は、 現在では自費出版業者が素人を騙すための言い換えに使われています。 当レーベルはある専門家の言葉を借りれば 「笑いものにされ淘汰される」 「ニーズのない」 本しか扱いませんので詐欺業者どころか業者ですらありません。
そのような出版活動についてご質問をいただきました。 若い頃に書きはじめた理由は文筆で生活したかったからです。 説明しがたい複雑な事情がありますが、 自分のような人間が生計を立てるロールモデルが存在しなかったから、 というのが大きいです。 そもそも障害のため適性はありません。 高い社会能力が要求される職業を、 認知の歪みで真逆に取り違えたのです。 現在では寛大な会社に拾っていただき、 とりあえず生活できているので職業作家になる必要はなくなりました。
2012 年から 2013 年頃までセルフパブリッシングの最終的な 「成功」 は、 大手企業に見出されて商業出版されることだった印象があります (往々にして出発点ですらないデビューが目標とはおかしな話ですが)。 だったら新人賞に出せば早いのに、 と感じたものです。 現在ではソーシャルメディアや実生活における支持者に購入してもらったり、 好意的なレビューをもらったりすることでランキングに露出し、 KU で安定した収入を得る、 いわば社会能力のゲームのような方向が定着しつつあります。 それはそれでひとつのありようだと思います。 ですがやはり強烈な違和感しかありません。
昨年の春まで個人的に、 セルフパブリッシング全体の品質を引き上げるとともに、 著者の個性を引き出すことでセルフパブリッシングであること自体をブランディングする計画を進めていました。 それは誤りでした (断念した理由はまた別にあります)。 アルゴリズムの精度を高めて利益を最大化することが大手ストアの活動目的です。 そこに最適化されることこそが著者たちの望みでした。 読者が求めるものもまた、 わたしの知る読書とは異なるようでした。
大手ストアの優れた出版サービスには今後もお世話になるつもりです。 しかしながら利用中のストアにもそれ以外にも、 「この売場に自分の商品を並べたい」 という欲求はあまり感じません。 アマチュアの粗悪な本や、 暴力を賞賛し人間性を貶める猥褻本ばかりギラギラとならんでいて、 読みたいものを見つけるのにすら困難をおぼえます。
それとは逆の話をしましょう。 職場の近くに素敵な書店があります。 翻訳小説の棚と、 アートや音楽の棚がお気に入りです。 その美しい一画を切り取って持ち帰りたい衝動に駆られます (たまに誘惑に負けて財布が軽くなります)。 その棚になら自著が積まれたり挿されたりすることを夢想できます。 当サイトが 「本のつながり」 と称してそれぞれの本を有機的に関連づけて見せているのは、 いわばその棚のようなものです。 そうした文脈の提示こそが、 読書の魅力、 豊かさ、 広がりを伝えるのに役立つと信じます。
もしも書くこと、 出版することに最終目標があるとしたら、 それは笑われ淘汰される側の人間に、 独りではないと伝えることです。 ヴォネガットが創作した宇宙生物ハーモニウムの会話のように。 サイト 「人格 OverDrive」 はそのための手段であり ebook はその一部です。 現状は大手ストアの販売機能に依存していますが、 将来的にはサイトだけで完結できたらいいなと思います。