杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第24回: なぜ、どのように出版するか

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
01.12Thu

なぜ、どのように出版するか

当サイト人格OverDriveは独立出版レーベルでもありますいわゆるセルフパブリッシングの手法で出版していますかつてその訳語であった個人出版」 「自主出版現在では自費出版業者が素人を騙すための言い換えに使われています当レーベルはある専門家の言葉を借りれば笑いものにされ淘汰される」 「ニーズのない本しか扱いませんので詐欺業者どころか業者ですらありません

そのような出版活動についてご質問をいただきました若い頃に書きはじめた理由は文筆で生活したかったからです説明しがたい複雑な事情がありますが自分のような人間が生計を立てるロールモデルが存在しなかったからというのが大きいですそもそも障害のため適性はありません高い社会能力が要求される職業を認知の歪みで真逆に取り違えたのです現在では寛大な会社に拾っていただきとりあえず生活できているので職業作家になる必要はなくなりました

2012年から 2013年頃までセルフパブリッシングの最終的な成功大手企業に見出されて商業出版されることだった印象があります往々にして出発点ですらないデビューが目標とはおかしな話ですが)。 だったら新人賞に出せば早いのにと感じたものです現在ではソーシャルメディアや実生活における支持者に購入してもらったり好意的なレビューをもらったりすることでランキングに露出しKU で安定した収入を得るいわば社会能力のゲームのような方向が定着しつつありますそれはそれでひとつのありようだと思いますですがやはり強烈な違和感しかありません

昨年の春まで個人的にセルフパブリッシング全体の品質を引き上げるとともに著者の個性を引き出すことでセルフパブリッシングであること自体をブランディングする計画を進めていましたそれは誤りでした断念した理由はまた別にあります)。 アルゴリズムの精度を高めて利益を最大化することが大手ストアの活動目的ですそこに最適化されることこそが著者たちの望みでした読者が求めるものもまたわたしの知る読書とは異なるようでした

大手ストアの優れた出版サービスには今後もお世話になるつもりですしかしながら利用中のストアにもそれ以外にも、 「この売場に自分の商品を並べたいという欲求はあまり感じませんアマチュアの粗悪な本や暴力を賞賛し人間性を貶める猥褻本ばかりギラギラとならんでいて読みたいものを見つけるのにすら困難をおぼえます

それとは逆の話をしましょう職場の近くに素敵な書店があります翻訳小説の棚とアートや音楽の棚がお気に入りですその美しい一画を切り取って持ち帰りたい衝動に駆られますたまに誘惑に負けて財布が軽くなります)。 その棚になら自著が積まれたり挿されたりすることを夢想できます当サイトが本のつながりと称してそれぞれの本を有機的に関連づけて見せているのはいわばその棚のようなものですそうした文脈の提示こそが読書の魅力豊かさ広がりを伝えるのに役立つと信じます

もしも書くこと出版することに最終目標があるとしたらそれは笑われ淘汰される側の人間に独りではないと伝えることですヴォネガットが創作した宇宙生物ハーモニウムの会話のようにサイト人格OverDriveはそのための手段であり ebook はその一部です現状は大手ストアの販売機能に依存していますが将来的にはサイトだけで完結できたらいいなと思います


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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