巨匠とマルガリータ
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巨匠とマルガリータ

焼けつくほどの異常な太陽に照らされた春のモスクワに、悪魔ヴォランドの一味が降臨し、作家協会議長ベルリオーズは彼の予告通りに首を切断される。やがて、町のアパートに棲みついた悪魔の面々は、不可思議な力を発揮してモスクワ中を恐怖に陥れていく。黒魔術のショー、しゃべる猫、偽のルーブル紙幣、裸の魔女、悪魔の大舞踏会。4日間の混乱ののち、多くの痕跡は炎に呑みこまれ、そして灰の中から〈巨匠〉の物語が奇跡のように蘇る……。SF、ミステリ、コミック、演劇、さまざまなジャンルの魅力が混淆するシュールでリアルな大長編。ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」にインスピレーションを与え、20世紀最高のロシア語文学と評される究極の奇想小説、全面改訳決定版!


¥3,740
河出書房新社 2008年, ハードカバー 607頁
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著者: ミハイル・ブルガーコフ

(1891年5月15日 - 1940年3月10日)ウクライナ出身の作家。『巨匠とマルガリータ』が最もよく知られている。彼の作品はソビエト社会に対する体制批判とみなされ、長いあいだ当局から弾圧されていた。作風に関し、同じくウクライナ出身の人物で近代ロシア文学の基礎となった作家ニコライ・ゴーゴリと比較される。

ミハイル・ブルガーコフの本
2018.
12.19Wed

巨匠とマルガリータ

岩波の Kindle 版で読んだ話も語り口もおもしろいが文字がやたら画像になっている漢字には何かこだわりがあるのかもしれないが三点リーダまで画像にしなくたっていいだろうセピアの背景で読んでいるとそこだけ訂正シールが貼られたように白くなっていて読みにくい文句をいいながら上巻の半分まで読んだら俄然怖くなってきた芸術家が次々に連れ去られるくだりは荒唐無稽な怪異でありながらリアルすぎるそのようにして発禁され地下出版された本なのにあくまでユーモアを喪わずとても活字にできない卑語といったギャグが頻発するのがおもしろい。 「ズボンもはいていないのにネクタイなんか締めてどうなるというのだ?」 「猫はズボンなどはかないことになっているのですよご主人なんてのは当時としてはあまりにも先進的だと思ったでも考えてみれば当時から擬人化された動物のアニメーション映画はあったわけだ

この物語で悪魔の一味がひどい目にあわせるのは男ばかりマルガリータや小間使いの少女には悪事をなすどころか魔力でやりたい放題をさせる世のさまざまな物語において魔女というのはしばしば男性優位社会のプロトコルを逸脱する女性のことだったりするけれど悪魔と出逢って以降のマルガリータはひたすら愉しそうだそして性暴力が小さなほのめかしから印象的な逸話に至るまでやたら言及されるなんでも夢を叶えてやるといわれたマルガリータが望むのは愛する男との再会ではなく強姦されて産まされた子どもを殺害した狂人を救うことだそれもきわめて衝動的にあっさりと語られるマルガリータの動機というか行動原理は基本的にそういうことであり悪魔はひたすら彼女の男性社会への衝動的な反抗を叶えつづける彼らは文学者であろうと貴族であろうと権威者をことごとく嘲笑いつづける社会主義国家における英雄であり富裕層である夫の束縛個人の資質としてはそれほど抑圧的でもないようなのだがしかし社会的な制約がある以上それは束縛として機能するから逃れてダメ中年男のもとへ走るということ自体が当時の価値観に真っ向から喧嘩を売っているこのダメ中年別の世界では巨匠になれたかもしれないが現実には最底辺の作家にすらなれず精神病院の隔離病棟に拘禁されているだからこそそのような男を愛することがマルガリータのような女にとってエンパワメントの手段になり得るのだそしてその巨匠自身のエンパワメントは社会的な尊厳を取り戻すことですらなくそれは悪魔の力によってさえ不可能なので)、 長いあいだ未完だった原稿を最後まで書き上げ登場人物を解放してやることにすぎないそれは体制の弾圧では燃やせなかった原稿をみずから燃やし詩人としての人生を諦めることと紙一重だ書き上げたのか葬り去ったのかそれは歴史が証明する

奇想といいメタフィクション的な技法といい社会に評価される本を書けないことへの絶望といい奔放な女性と抑鬱的な男性との対比といい拙著Pの刺激との類似性を意識せずにはいられなかったそして衝動的な女性が暴力によりエンパワメントし原稿の呪いに囚われていた男が登場人物を解き放ち死後の世界へと旅立つ結末は悪魔とドライヴにもどこか似ているPの刺激はいうまでもなくヴァリス朝のガスパールに強い影響を受けているディックが現実と虚構の交錯に関心をもつに至ったのは統合失調症への関心や冷戦の時代背景がかかわっていたのだろうしそうしたモチーフはジャック・フィニイによって街が盗まれた五十年代からすでに見られたそれをいうなら牡猫ムルの人生観だってトリストラム・シャンディだってすでにあったわけだ前者は好きだが後者はまだ読んでいない)。 しかしマリアンヌ・フェイスフルがミック・ジャガーに読ませたくらいなので六十年代末にはディックもこの本を読んでいたかもしれない筒井康隆は当然この本が日本に紹介された時点で読んだだろうそう考えるとこの本はPの刺激の直系のご先祖様にあたるわけでなぜいまに至るまで読まなかったのかと後悔したとはいえ研究も進み邦訳が Kindle 化され、 『ベガーズ・バンケットの五十周年記念盤が出たこのタイミングで読めたのはそれはそれでよかったのかもしれない


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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