終盤の、 悪漢が勢揃いして部屋で会話してるだけのシークエンスが、 退屈になってもおかしくないのに緊張感があるんですよね。 こういうのは実際に犯罪者と渡り合ってたひとでなければ書けない場面だと思います。 正しいことをしたはずなのに、 それがゆえに地獄に落ちる主人公。 だから冒頭であれほどまでに悪魔面だと強調されるんですね。 これもまた胸を締めつけられるような、 罪の意識を物語に昇華した例だと思います。 腑に落ちない文章がひとつだけあって、 全編を通して客観描写なのにそこだけ 「スペイドは見つけられなかった」 とか書かれてるんですよね。 ほかの文章では見つけられない様を表情や行動や発言で描写するのに。 そこだけ浮いてるんです。 あれは謎だったな。 フリッツクラフトの寓話も文脈がよく理解できませんでした。 その点 『ガラスの鍵』 は寓意がわかりやすい。 うまく表現されていたと思います。 ハメットは最初から巧かったわけじゃなくて、 仕事として請けながら書き方を憶えていった感じがあるんですよね。 実録ものの短編からはじめて、 中編に挑戦し、 中編を組み合わせて長編を手がけ、 長編の書き方を少しずつ学んでいく。 前作まではそのプロセスにあって、 この本から刈り入れどきという印象です。
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読んだ人:杜 昌彦
(2017年09月07日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『マルタの鷹』の次にはこれを読め!