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長い別れ
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長い別れ

テリー・レノックスという酔っぱらい男と友人になった私立探偵フィリップ・マーロウは、頼まれて彼をメキシコに送り届けることになった。メキシコからロスに戻ったマーロウは警官に逮捕されてしまう。レノックスが妻殺しの容疑で警察に追われていたのだ。しかし、レノックスが罪を告白して自殺したと判明。マーロウのもとにはレノックスからの手紙が届いた。ギムレットを飲んですべて忘れてほしいという手紙だったが……。『大いなる眠り』、『さらば愛しき女よ』と並ぶチャンドラーの代表作。愛と友情を描いた不朽の名作を名手渾身の翻訳で!

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暴力とカサンドラの寓話

読んだ人:杜 昌彦

長い別れ

この小説では愛のためにだれもがだれかに心を痛めている探偵は過去に穢された友人に友人は心のない妻と喪った過去に作家は妻の過去と秘められた暴力に妻は夫の不貞と暴力それに穢された想い出に傷つけ傷つけられふりまわしふりまわされ最後にはみんなおかしくなってしまう若い頃ずっとこれは村上春樹が訳すべきだと夢想していて叶ったとき清水訳で 20 回読まないとわからなかったことが一遍でわかるようになったと喜んだものだったそれが田口訳ではより鮮明に明瞭になった清水訳では人形のようで村上訳でもまだどこか掴みどころのなかった作家の妻が呼吸をし汗をかき身勝手な動機につき動かされる生身の女として活き活きと感じられるNHK のドラマ版もおなじ意味でよかった作家の妻が現れる場面が男たちの性的な視線から噂好きの女たちの冷笑に置き換えられていたり小雪演ずる作家の妻が少女のように病的に幼い立ち振る舞いをしていたりとかつては男たちのロマンチシズムとして歪曲されがちだった物語が女たちの人生を感じさせるものとして語りなおされていて好ましかった大道具はパソコンから出力されたフォントがめだち雰囲気を損ねていたが⋯⋯)。 あのドラマにせよ今回の新訳にせよああこの物語はそういうことだったのかと思わされた清水訳ではじめて読んだのは三十年前探偵とかれを逃避の道具立てにしようとする女とはどちらも両親ほどではないにせよ遥かに歳上で想像もつかぬほど遠い大人の世界に思えた気まぐれな旅と結婚に誘う女もその動機を見透かして拒む探偵も自分がだれとも生きられない種類の人間であることを知る前の十代の子どもには難しすぎたいまではかれらの言葉も心情も不器用でひたむきな若さもわかるそして探偵が友人をいちどは酒場で二度目は何もかも変わってしまった再会であらためて拒絶する理由をようやく理解できたように思う探偵と友人はともに戦争を経た暴力の世界に生きていて鏡のような双子のような存在であったけれど探偵は最後には人間の側にとどまることを選んだのだチャンドラーは著作権保護期間が切れたらしく今後もさまざまな翻訳がでるだろう舞城王太郎による全訳を個人的には期待したい青玉楼主人さんの考察も興味ぶかくお薦めだ

(2022年10月12日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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AUTHOR


レイモンド・チャンドラー
1888年7月23日 - 1959年3月26日

1932年、大恐慌で石油会社の職を失い、翌年『ブラック・マスク』誌にて短篇「ゆすり屋は撃たない」でデビュー。1939年には処女長篇『大いなる眠り』を発表。1953年『ロング・グッドバイ』でMWA最優秀長篇賞を受賞。1959年没。享年70。