杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第68回: マイ・インターン

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
09.07Thu

マイ・インターン

大傑作人間を描くのはささやかで地道な積み重ねだって思い知らされましたね男女の会話で主導権を握るほうが右側に位置するとか人物の服装が変わる場面には意味があるとかそういう映画特有の言語というか作法というか記号的なお約束があるじゃないですかその転換がいくつか重ねられてやがて大きな転換でそれまでの意味が変わるというのがどの傑作にも共通する作法ですけどそのツイストがものすごく際どいひやっとさせられるんですそこの処理がなんとも大人こんなやり方があるのかと唸らされました

ネタバレになっちゃうかもしれませんけどまぁ設定からだいたい推測できるはずなんで大丈夫でしょう書いちゃいます男女には厄介な問題があって人生だれだって子どものように泣きたいときってあるじゃないですかホットミルクやクッキーを手に庇護してくれる年長者に慰められながら暖かいベッドで眠りたい夜がその意味合いを読み違えることって男の側にも女の側にもあると思うんですあるいは読み違えたいと願う弱気な瞬間がその弱みを適切に扱えるかどうかは理性よりも経験でしか得られないスキルのような気がします

この映画ではアン・ハサウェイが二度失恋するんです強がりのように自明のいいわけをするのを聞かされて観客はあっそういうことだったんだと気づかされます大人だから野暮なことはいわないひやっとする瞬間がふたりのあいだに流れたことなどなかったことにする互いにわかっていながら⋯⋯世代も性別も異なるふたりの大切なひとを失うそれぞれの孤独がクラシックなミュージカル映画に重ねられます

つまるところ観客に悟らせる決め手はほんとにささやかな描写の積み重ねなんですねアクロバティックな演出を成立させるのは結局そういう地道なやり方なんですアン・ハサウェイとその娘がそっくりだという描写ロバート・デ・ニーロの友人にいい寄られて困惑する様子どもや若者たちへの接し方これまでの人生のエピソードそして意中の女性との接し方そういう積み重ねがあるからくどくどと説明されなくても観客にはわかる察して野暮なことはいわないよって気分になるこれは擬似的な父と娘の映画です読み違えないことに成功した男女の物語なんです


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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