ドーキー古文書
ISBN: 9784560072219

ドーキー古文書

遁走する言の葉たちの狂想的喜劇! 海辺の町ドーキーでミック・ショーネシィが知りあった科学者にして神学者ド・セルビィは、厭世が昂じて世界破壊計画を企て、大気中の酸素を除去する物質D・M・Pを研究開発していた。嘘か真か、それによって時間を停止させることにも成功したという。一方、ミックは行きつけの酒場で「ジェイムズ・ジョイスが死んだという報道は眉唾物だ」と聞かされる。ダブリン郊外で名前を隠して居酒屋の給仕になっていたジョイスを探し出したミックは、彼をド・セルヴィに会わせようと画策するが……。世界破壊、時間の停止、彼岸との交信、生きていた(?)ジョイスといった奇想に加えて、オブライエン作品ではお馴染みの奇人たちが登場、ほら話とも真面目な議論ともつかぬ会話がくりひろげられる。世界中で愛されたアイルランド文学の異才フラン・オブライエン最後の傑作。

¥ 1,980
白水社(新書: 2019-01-25)
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著者:フラン・オブライエン

(1911年10月5日-1966年4月1日)アイルランドの作家。長篇第一作『スウィム・トゥー・バーズにて』はベケット、ジョイスらに高く評価されたが、第二作『第三の警官』の原稿は出版社に拒否される。マイルズ・ナ・ゴパリーン名義の新聞コラムで長年にわたって人気を博した。1960年代に『ハードライフ』『ドーキー古文書』を発表。没後『第三の警官』が出版されると、前衛的方法とアイルランド的奇想が結びついた傑作として絶賛を浴びた。

フラン・オブライエンの本
2019.
04.10Wed

ドーキー古文書

禁酒していたのである。しかるにこの小説はしらふで読んでもつまらない。おかしな人物が次々に出てきて、酔っ払っているからこそ理解できる種類の会話をくりかえす話なのだ。友人や見知らぬ他人と腹を抱えてげらげら笑って、同じ話題を何周もしてそのたびに爆笑して、翌朝ひとりで二日酔いとともに目覚めてみれば、何がそんなにおもしろかったのか首をひねる夜ってあるでしょう。ド・セルビィ博士のご相伴にあずかれば、たちどころにそのような世界が出現する。たとえばとある警官は、自転車がなければ格好がつかないとの職業的信念と、自転車を漕げば尻とサドルに分子の交換が生じて人間が自転車に乗っ取られるとの妄想とをともに抱えている。そして酔っ払ったときの世界が往々にしてそういう理屈で機能するように、この小説ではどうやらその考えはあながち荒唐無稽でもないらしい。めんどくさいやつだな、だったらしょうがない、という程度の扱いになる。時間の流れが乱れて聖人の亡霊があらわれ、高尚な神学論議を交わす……かと思えばやはり酔っ払いのたわごとだ。あるいは尊い古文書と酔っ払いのたわごとに差はないのかもしれない。中盤まではしらふでつきあおうと努めたがむりだった。退屈で数ヶ月放置した。『クロストーク』読了後、アイリッシュつながりで再開するや自然と瓶に手が伸びた。それから俄然、愉しめた。しらふだった前半はもたもた読んでいたのに後半は一気読みだった。ずるいことにマッド・サイエンティストのセルビィ博士は、主人公が彼の妄想を受け入れて世界を救い国民的作家をとっちめた頃には、もっというならこちらが禁酒を破った頃には、しらふに返って物語からあっさり退場してしまう。あたかも悪魔の発明品を奪われ、銀行の貸金庫によって遮蔽されたことで、自分だけ先に酔いから醒めたかのようだ。そして迎える予想外のまっとうな結末。徹頭徹尾、現実に生きていたのは主人公の恋人だけで、酔っ払いの幻想を共有したかに見えた親友もまた主人公よりは醒めていた。セルビィ博士が先週仕込んだ酒は酔い覚めすっきりであるようだ。ちょっと待てよ、そういう話だったの? それまでのとち狂ったたわごとはどこへ消えたのか。こちらはおたくらのために禁酒を破ったのだ。いまや主人公さえも酔いから醒めて大人になろうとする。残されたこちらは腑に落ちない気分で再読を強いられる。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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