十年ぶりのプリースト。 それなりに楽しんで読んだ。 なるほど集大成の評判どおり彼特有のモチーフをつなぎあわせてある。 しかしつなぎあわせる要素、 SF 的な天才科学者のよくわからない理論による SF 的な兵器、 に求心力がない。 もやっとした書き方しかされていない。 それぞれの物語がただ、 異なる場所で撮影した写真のように、 ばらばらのまま提示してある。 ロベルト・ボラーニョ 『2666』 もまた同様の、 つながりそうでつながらない物語で、 最後まで答えが出ないあたりも似ていたけれども、 連続強姦殺人という暗い現実味が力強く、 それぞれの物語を結びつけ読者を惹きつけもしていた。 『隣接界』 の SF や寓話的世界にそうした力は感じられない。 そもそもそうした意図がない。 一方で、 プリーストらしい悪意の描写には、 あいかわらず病的な現実味が感じられもした。 総じてよくわからない、 というのが感想で、 おそらくそうした 「よくわからない」 物語を提示するのがプリーストの意図だったのではないか。 しいて意味を見出すなら、 撮ることで失った妻を撮ることで取り戻す話、 といったところだろうか。
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隣接界
by: クリストファー・プリースト
近未来英国、フリーカメラマンのティボー・タラントは、トルコで反政府ゲリラの襲撃に遭い、最愛の妻を失ってしまう。本国に送還されるタラントだが、それから彼の世界は次第に歪み始めていく……。現実と虚構のあわいを巧みに描きとる、著者の集大成的物語。
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読んだ人:杜 昌彦
(2018年01月03日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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