妄想中年日記

連載第107回: 踊る熊

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
12.29Fri

踊る熊

Tanssiva Karhuは「踊る熊」を意味するヘルシンキのバンド。YouTubeに「歌ってみた」動画を投稿していたヘルシンキのJenna-Marie Laine(DiscogsではJenna Marie Pietiläと表記。ギタリストのToni Pietiläは夫か兄もしくは弟だろうか)という女性をボーカルとして、昨年デビューEPをリリースした。ボーカルのほかフルート、ギター、キーボード、ベース、ドラムスという編成の六人組。フルートのメンバーはYouTube動画とDiscogsとで異なっており、五人で映っているアー写もあることから、EP収録時にはフルートのみサポートメンバーで、のちに現在のTin-jay Vuoriが加入したと思われる。公式FacebookページSoundCloudのプロフィールには「おかしな帽子を被ってくるくる廻る、サーカスに囚われた熊ではなく、松林で踊る自然の熊」とある。ポップ、フォークロック、プログレッシヴ、サイケデリア、ジャズに分類される。Jenna Marie本人によれば60〜70年代に触発された音楽とのこと。個人的にはStereolabや初期のAutour de Lucieを連想した。いわゆる「渋谷系」の洗礼を受けた世代には、1995年のThe CardigansやCloudberry Jamをより耳に心地よくポップにした感じ、といえば伝わるだろうか。FacebookページではDungen、The Byrds、Mamas & the Papas、Donovan、Fairport Convention、Pentangle、Os Mutantes、Marcos Valle、Mikael Ramel、Linda Perhacs、Wendy & Bonnie、Free Design、Liekkiをお薦めアーティストとして挙げている。

Jenna Marieのことは九年前、The Velvet Undergroundのカバーで初めて知った。この動画は35万回以上も再生され、世界中の「歌ってみた」少女が彼女に倣って「After Hours」を歌った。以降、彼女はヴェルヴェッツのほかPJ HarveyやElliott Smithのカバーで人気を博す。投稿の間隔が長くなり2012年を最後にYouTubeでの活動を休止、2013年にgoogle+でオリジナル曲での復帰を示唆。二年後にSoundCloudにTanssiva Karhuのデモ曲が投稿される。

翌2016年、Tanssiva Karhuは待望のデビューEP「Kutsu E.P.」をリリース。Facebookページもその頃に開設されたようだ。今年になって知ったのはJenna MarieがYouTubeにプロモ動画を投稿したからだ。大学卒業後、結婚し子育てをしていたために音楽活動およびウェブでの活動から遠ざかっていたのではないかと推察される。インスタグラムのプロフィールにはTanssiva Karhuの歌手であり、母であり鳥の友でもあると記されている。

現時点ではYouTubeにライヴ動画がいくつか見つかるだけで情報は少ない。日本語の情報はおそらくこの記事が唯一だと思われる。美しいメロディ、耳に心地よい音色や歌声は日本人好みだ。フルアルバムのリリースが待たれる。ちなみに金髪にした理由をファンに問われたJenna Marieは「フィンランド人は大抵そうです」と答えている。かつては黒く染めていたのだ。


杜 昌彦

(Masahiko Mori, 1975年6月18日 -)著者、出版者。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。