ありきたりの狂気の物語
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ありきたりの狂気の物語

なぜか酔いどれの私が付添人を務めることになった結婚式のめちゃくちゃな顛末(「禅式結婚式」)。残業だらけの工場を辞め、編集者として再出発した男がやらかした失敗の数々(「馬鹿なキリストども」)。何もかもに見放された空っぽでサイテーな毎日。その一瞬の狂った輝きを切り取った34の物語。伝説的カルト作家による愛と狂気と哀しみに満ちた異色短篇集。

著者:チャールズ・ブコウスキー

(1920年8月16日 - 1994年3月9日)米国の作家。二歳でドイツから米国へ移住。大学離籍後、さまざまな職業を経て’52年から’70年まで郵便局に勤務しながら創作を続ける。ブラックスパロウ・プレスのジョン・マーティンと出会い、執筆に専念。白血病で亡くなるまで50冊に及ぶ詩集や小説を発表した。

2018.
03.10Sat

ありきたりの狂気の物語

四半世紀ぶりに読み返した。webちくまで読んだ巻末エッセイがすごくよかったので。ブコウスキーについて書かれた文章で共感できるのは珍しい。彼ほど人生と労働に対してくそまじめな人間もいない。なかなかわかってくれるひとがいないので嬉しかった。

ブコウスキーとエルモア・レナードとディックとチャンドラーのユーモアは、それぞれスタイルや発露の仕方はちがうけれども似たところがある。ピンチョンもだな、彼もそうだ。ああいう乾いてとぼけたユーモアをなんと呼ぶのだろう。

ドロシー・ヒーリーってだれだ? と思ってぐぐったらどうやら共産主義活動で有名な女性らしい。ブコウスキーと会ったときは五十代だったようだ。二日酔いでよく憶えてないけど美しい女性だったよ、というあの書きぶりには敬意の念が感じられた。さらにぐぐったらブコウスキー専門のフォーラムを見つけた。いいなぁ。英語ができたら入り浸るのに。

とにかくブコウスキーには共感できる。性暴力を笑えるネタと信じ込んでいるのを除けば。しかし多くの点でまったく異なる。まず労働に対する意識。からだがくたくたになるまで働くということを基本的におれはしない。というかできない。何をどうしたらいいかわからず右往左往するだけだ。こういう無能をBUKは蔑む。蔑まれて当然だと思う。結局のところ彼は有能なのだ。

ギャンブルはつきつめれば労働だと彼は書いていて、まさにそうだとおれも思う。浪費してもいい金だけを持って競馬場へ出かけたと何かで読んだ。分析し、考え、投資したのだろう。仕事ができるからギャンブルをする。おれはしない。何をどうしたらいいかわからず右往左往するだけだ。

ひとりになりたいと彼は書く。おれもつねにそのように感じる、彼とは違う理由で。無能を蔑まれるのがいやだからだ。彼はひとりになれば書ける。おれはそうでもない。書けるかどうかは自分をOKと思えるかどうかにかかっている。そして大抵の時間、自分をそのようには思えない。無能だから。

ブコウスキーはじつに写真映えのするおっさんで、ウェブに溢れるどの画像でも優しい目を糸のように細めて笑っている。ひとが好きだったのだろう。なんだかんだいって人間を信じて愛していたのだ。おれもいつかあんなふうに笑えたらと思う。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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