四半世紀ぶりに読み返した。 web ちくまで読んだ巻末エッセイがすごくよかったので。 ブコウスキーについて書かれた文章で共感できるのは珍しい。 彼ほど人生と労働に対してくそまじめな人間もいない。 なかなかわかってくれるひとがいないので嬉しかった。 ブコウスキーとエルモア・レナードとディックとチャンドラーのユーモアは、 それぞれスタイルや発露の仕方はちがうけれども似たところがある。 ピンチョンもだな、 彼もそうだ。 ああいう乾いてとぼけたユーモアをなんと呼ぶのだろう。 ドロシー・ヒーリーってだれだ? と思ってぐぐったらどうやら共産主義活動で有名な女性らしい。 ブコウスキーと会ったときは五十代だったようだ。 二日酔いでよく憶えてないけど美しい女性だったよ、 というあの書きぶりには活動家に対する敬意の念が感じられた。 さらにぐぐったらブコウスキー専門のフォーラムを見つけた。 いいなぁ。 英語ができたら入り浸るのに。 とにかくブコウスキーには共感できる。 性暴力を笑えるネタと信じ込んでいるのを除けば。 しかし多くの点でおれとはまったく異なる。 まず労働に対する意識。 からだがくたくたになるまで働くということを基本的におれはしない。 というかできない。 何をどうしたらいいかわからず右往左往するだけだ。 こういう無能を BUK は蔑む。 蔑まれて当然だと思う。 結局のところ彼は有能なのだ。 ギャンブルはつきつめれば労働だと彼は書いていて、 まさにそうだとおれも思う。 浪費してもいい金だけを持って競馬場へ出かけたと何かで読んだ。 分析し、 考え、 投資したのだろう。 仕事ができるからギャンブルをする。 おれはしない。 何をどうしたらいいかわからず右往左往するだけだ。 ひとりになりたいと彼は書く。 おれもつねにそのように感じる、 彼とは違う理由で。 無能を蔑まれるのがいやだからだ。 彼はひとりになれば書ける。 おれはそうでもない。 書けるかどうかは自分を OK と思えるかどうかにかかっている。 そして大抵の時間、 自分をそのようには思えない。 無能だから。 ブコウスキーはじつに写真映えのするおっさんで、 ウェブに溢れるどの画像でも優しい目を糸のように細めて笑っている。 ひとが好きだったのだろう。 なんだかんだいって人間を信じて愛していたのだ。 おれもいつかあんなふうに笑えたらと思う。
ASIN: 4480434607
ありきたりの狂気の物語
by: チャールズ・ブコウスキー
なぜか酔いどれの私が付添人を務めることになった結婚式のめちゃくちゃな顛末(「禅式結婚式」)。残業だらけの工場を辞め、編集者として再出発した男がやらかした失敗の数々(「馬鹿なキリストども」)。何もかもに見放された空っぽでサイテーな毎日。その一瞬の狂った輝きを切り取った34の物語。伝説的カルト作家による愛と狂気と哀しみに満ちた異色短篇集。
特集: 悪党たちの物語, お友だちはサイコパス
※価格はこのページが表示された時点での価格であり、変更される場合があります。商品の販売においては、購入の時点で Amazon.co.jp に表示されている価格の情報が適用されます。
読んだ人:杜 昌彦
(2018年03月10日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『ありきたりの狂気の物語』の次にはこれを読め!