期待した巨匠の技は堪能できる。 いいまわしはおもしろいし、 銃撃戦も素手の格闘もカーチェイスも、 走行する列車上のアクションまである。 犯人は登場した時点でわかる (これは欠点ではなく物語を安心して楽しむための 「お約束」 である)。 ごていねいに容疑者を集めた種明かしまである。 若い男女はくっついて謎は解き明かされ犯人はそれなりに罰される。 殺されたノミ屋を別にすればだれも傷つかない。 でも結末のページに行き着いたところでなんの感慨もない。 それが悪いわけでもない。 なんでこんなに味気ないのかな。 登場人物に魅力がないからだ。 だから印象に残らない。 主人公がもっと金にがめつければよかったのに。 そうすればすくなくとも主人公の、 危険にたいする無頓着さや動機の説明にはなった。 ヒロインだってカジノのディーラーという設定を活かしきれていない。 頭がよくて度胸もあるのに後半は主人公にふりまわされて逃げ惑うだけだ。 そのあたりが欠点といえば欠点かもしれない。 でもたぶんジャンル読者にとってはそれもまた長所なのだろう。 よくも悪くもあとに残らない。 期待したものを期待どおりに手に入れて、 裏切られることがない。 そういうあっさりした楽しみのための小説だ。 人生に満足し、 落ち着いた、 ゆとりのある大人の読者のためのジャンル小説なのだろう。 あるいはミステリの勉強をしようとしている作家志望者にはよさそうだ。 要するにおれのための本じゃないけれど、 読んで不快になったとか損をしたとは思わなかった。 かれの本としては最高傑作じゃないが、 いい部類じゃないかな。
ASIN: 4102402314
ギャンブラーが多すぎる
by: ドナルド・E・ウェストレイク
30代のしがないタクシー運転手のチェットは大のギャンブル好き。偶然乗り合わせた客から競馬の勝ち馬情報を入手し、馴染みのノミ屋トミーに35ドル渡したところ、情報が的中。配当金を受け取りに意気揚々とトミーを訪ねると、ノミ屋は胸に銃弾を浴びて殺されていた。どうやら複雑な事情が絡んでいるらしく被害者が関わっていた二つのギャング組織から追われることになったチェットは、トミーの妹と協力して事件の真相を探ることに――。手に汗握るスリリングな逃亡劇、全員集合のドタバタ大騒動、ロマンス、一同集めてのクリスティーばりの犯人当てと、ミステリー全盛の時代の軽妙洒脱な世界がここに。リチャード・スターク名義の悪党パーカー・シリーズ、大泥棒ドートマンダー・シリーズで知られる、米国ミステリー界の重鎮による幻の逸品。本邦初訳。
特集: スラップスティック!
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あの金を鳴らすのはあなた
読んだ人:杜 昌彦
(2022年12月17日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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