前回とりあげた 『逃亡のガルヴェストン』 と同じ題材にして、 これまた同じく人気ドラマ脚本家による作品だが、 こちらはエドガー賞を実際に獲っただけあって愉しめた。 話にも起伏があるし登場人物も必要充分な程度に活き活きしている。 父親が娘を教育する話なのだが心温まるほのぼのストーリーのパロディなのだろう。 そのあたりについてはおれの父親はフィクションではない本物のサイコパスだったし、 普通の家庭というものを知らないのでよくわからない。 たぶん健常者なら笑えるのだろう。 父の愛人と娘がはじめて心を通い合わす場面はよく書けていた。 たいして深みのある人物造形ではないが紙人形以下の 『ガルヴェストン』 よりずっといい、 少なくとも読んでいるあいだは信じられる。 プロットに特筆すべき点はない。 こういう話でこういう設定ならこういう感じだよねという印象。 しかし極めてテンポがよいので退屈しない。 おもしろく読める。 『ガルヴェストン』 のほうはお約束をただなぞりましたという感じだったけれど、 こちらは読者の期待通りおもしろく書きました、 という水準。 読んでいるあいだ期待通りしっかり愉しめて後に残らない、 というのも大切な技術だと思う。 人生のかぎられた時間をこういうのを読み棄てるのに使うのを無駄だと感じるか、 愉しく過ごせたと捉えるかはひとそれぞれだ。 といってもたいした時間は要さない。 分量も薄いし内容的にもヤングアダルトといっていい。 普段はジャックダニエルを常飲していても米やコーンスターチの入った薄いビールを飲みたい日だってあるじゃないですか。 ショットガンに乗る子、 という原題は助手席を意味するらしいがうまいことつけたものだ。 邦題の 『拳銃使いの娘』 も悪くないがギャビン・ライアルの小説を思わせるだけに少しがっかりさせられた。 登場する父親は拳銃使いではない。 ただのちんぴら強盗だ。 しかしほかの題名だったなら手にとる気にはさせられなかったろうから、 やはりうまくつけたものだと思う。
ASIN: 4150019398
拳銃使いの娘
by: ジョーダン・ハーパー
【アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞、アレックス賞受賞】 11歳のポリーの前に、刑務所帰りの実の父親ネイトが突然現われた。獄中で凶悪なギャング組織を敵に回したネイトには、妻子ともども処刑命令が出ており、家族を救うため釈放されるや駆けつけたのだった。だが時すでに遅くポリーの母親は殺されてしまった。自らと娘の命を救うため、ネイトはポリーを連れて逃亡の旅に出る。処刑命令を出した組織に損害を与えるため、道々で強盗をくりかえす父子。暴力と犯罪に満ち危険と隣りあわせの旅の中で、ポリーは徐々に生き延びる術を身に着けていく。迫る追っ手と警察をかわして、父子は生き残れるか? 人気TVシリーズのクリエイターが放つ鮮烈なデビュー作!
¥1,870
早川書房 2019年, 新書 264頁
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読んだ人:杜 昌彦
(2019年07月17日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『拳銃使いの娘』の次にはこれを読め!