D.I.Y.出版日誌

連載第26回: アルゴリズムとサミズダート

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
01.16Mon

アルゴリズムとサミズダート

Twitter の報告機能はダミーなのでしょう成人向け広告を報告してブロック報告してブロックとくりかえしているのですが執拗に表示されつづけますたしかに清廉潔白とはほど遠くどちらかといえば猥褻な人格ではありますが何しろ老人です需要があるどころかそんな格好じゃお腹が冷えるよくらいにしか思えませんあるいは報告やブロックをすればするほど強い行動を引き起こしたと判定され効果があったと見なされてかえって表示頻度が上がるのかもしれませんインターネットの商売は往々にしてそのように行われます人間性など一顧だにされませんただ刹那的な反射と社会スキルのゲームがあるだけです

たとえば大手 ebook ストアでは書名に死神という単語が含まれると自動的に落語・寄席カテゴリに分類されるそうですその単語を検知したアルゴリズムの挙動がそのようなものなのです出版者が設定するカテゴリ分けは本そのものの書誌情報のようなものですそれに対してストアのカテゴリは書棚の分類ですおそらくストアのアルゴリズムは書誌情報を参照しません重視するのは短絡的な反応クリックや SEO です売れればいいので本の内容や読書の都合などどうでもいいのです報告やブロックを猥褻な関心と見なすのとちょうど同じように客は客でそんな店しか知らないからそういうものだと思い込んでいます

客が別の店で買うようになればアルゴリズムは改良されるでしょうしかしそのような消費行動は生じませんひとは自分たちの行動が視界を限定するとは考えません見ているものがすべてだと信じます自称専門家のいうニーズとは所詮そのようなものですどんなに素敵な餌がまわりにあっても視界に入るのは自分のしっぽだけ追いかけて喰い尽くさねばどうにもならぬと思い込みます彼らは自らの正しさを疑いません疑いは悪とされるからです多数派は自らを護るために逸脱を淘汰可能性を閉ざして身を滅ぼします

滅びるのは勝手ですが彼らはあまりに多くを巻き添えにしすぎます変化を畏れて何もかも台なしにするのです。 「音が歪んでいるという理由で Loveless に星ひとつのレビューをする客がいるそうです自分が理解できないものが存在するのを許せずそれを好きなひとが集まる場にわざわざ出向いていって、 「われこそは正義なり不正はたださねばならぬとばかり価値を否定するそのようにして正しい側に属することを常に確認していないと不安なのでしょうだから属さぬものは誤った少数派でなければならず淘汰しなければならないと思い込むのです

そうしたすべては人間性を排除したアルゴリズムへ自らを最適化するゲームです多数派であることの力を望む客が世界をそのように変えるのですそんな時代でわれわれ読者に何ができるのでしょうか少しでも弱さや個性を持っていては淘汰され笑いものにされます生きやすさを得るためには己の人間性を殺さねばなりません突き詰めればそれは自身をサイボーグ化しアルゴリズムそのものとなることです未来の出版と読書はアルゴリズム同士で行われることでしょう自動化された兵器による戦闘のように

そうなれば弾圧された言葉は地下でやりとりされます早くその日が来ればいい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。