ゼロ年代になぜかリチャード・スタークではなくウエストレイク名義の、 喜劇ではなくノワールの、 それもあまり有名ではない作品がちょっとだけ流行ったことがあった。 これもその一冊。 柳の下の三匹目といったところか。 ずいぶんちっちゃい泥鰌だ。 純粋に巨匠の手堅い職人技だけを楽しむべき小説で、 手堅い職人技のプロットは冒頭をちょっと読んだだけで展開、 構成から落ちまで、 そこで使われる手管に至るまですべて予想がつく。 ナボコフならこのプロットで傑作を書いたろう。 若い作家志望者が学ぶにはいい教材かもしれないね。 よくも悪くも読者の期待を裏切らない。 ウエストレイクのノワールと聞いて期待するものがあなたの手にするものだ。 読む前に予想するのと結果がおなじなのだから読まなくても読んだも同然。 驚きも昂奮もひねりもなく、 たいして笑えるわけでもなく、 いつもの巨匠の堅実な職能を楽しむためだけの、 そういう時間の使い方をよしとするかどうか。 おれはどうだったかって? まぁ楽しんだよ。
ASIN: 4167661888
聖なる怪物
by: ドナルド・E・ウェストレイク
引退した老雄がインタビュワーを前に語りだす狂乱と頽廃の半生。だがそこには隠蔽された犯罪が。悪夢と哄笑が彩る驚愕のミステリ
¥200
文藝春秋 2005年, 文庫 328頁
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よくも悪くも職人技
読んだ人:杜 昌彦
(2022年11月09日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『聖なる怪物』の次にはこれを読め!