赤い収穫
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赤い収穫

1929年の探偵小説。サム・スペードと並ぶ有名な探偵コンチネンタル・オプものの最初の長編であり、ハメットにとっても処女長編である。血のふきすさぶ壮絶なバイオレンス小説として、また黒澤明監督の時代劇映画『用心棒』の下案となったことでも有名。コンティネンタル探偵社サンフランシスコ支局員のコンチネンタル・オプ(本名は作中語られず不明である)が、とある鉱山町「パースンヴィル」俗称“ポイズンヴィル”にはこびる暴力に対し、毒をもって毒を制すのやり方で、それらを粉砕していく。オプの一人称で語られる。ハメットの得意とする叙情を排した乾いたスピーディな文体で物語は進められる。荒っぽいがリアルで味のある会話や人物描写は、探偵小説にリアリズムを持ち込んだものとも評され、ハードボイルド探偵小説の嚆矢として、多くの作家たちに影響を与えた。

著者:ダシール・ハメット

(1894年5月27日 - 1961年1月10日) 米国のミステリ作家。厳しい客観筆致によるいわゆるハードボイルド文体を確立した代表的な人物である。ピンカートンでの探偵としての経験を生かした描写で知られる。

2018.
03.31Sat

赤い収穫

リンク先は小鷹訳で、これが決定版なのだけれども絶版で手に入らない。グーテンベルク21の古い翻訳で二十年ぶりに読み返した。「はいちゃい(「はいさよなら」の幼児語)」って……と呆れたが、うーん、でもこれはこれで雰囲気でてるかなぁ。ハメットならではのユーモアが強調されていて登場人物の個性が際立つ気がする。小鷹訳で何度も読んでいるのに25歳の大女の、何を着ても破れてしまう描写とか、だれもが夢中になってしまう感じがよく伝わってくる。こっちが歳をとったせいなのか翻訳が口語的なせいなのか、どっちのおかげかわからないけれど。女という弱い立場で生き抜くため、そのとき、そのときでいちばん強い男にすり寄りながらも、肺病病みの弱い男に甘えて暴力をふるわずにはいられない、そういう人物像が巧みに描かれている。この小説ではだれもが死にもの狂いで生きている。

連載短編シリーズの長編回、といった話なので、きわめて短いサイクルで殺人が起きては解決される。その繰り返しに加えて派手なアクションがひたすら連続する。若い頃に読んだときは構成に難があるように思えた。たしかにハメットはのちの作品ではアクションを抑え気味にして、静かに緊張を高める手法を洗練させた。けれどもこの作品がまずいわけでは決してない。なかなか練られた構成だと思う。たしか雑誌掲載時には中盤の脱獄シーンでダイナマイトによる爆破がくわしく描写されていたのを、長編にまとめる際に削ったのだったと思う。中編『血の報酬』を踏み台にして長編の技術を習得したのだろう。ハメットが作家として活動した期間は長くない。実際の経験を活かした実録ものにはじまって、短い期間で書き方を身につけた。どうしたらそんなことができたのだろう。そこまで優れた作家だったのになぜ書けなくなったのだろう。

「自分が殺したのかもしれない」と悩む主人公には、何度読み返しても胸を締めつけられる。ハメットが実人生で経験した理不尽や罪の意識が盛り込まれているのだ。生活費のために書かれたに違いないのに、にもかかわらず、書かずにはいられなかった切実さがこの本にはある。人間の心理を活き活きと描いた古典的傑作。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。