D.I.Y.出版日誌

連載第183回: Radio Free OverDrive

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
03.16Sat

Radio Free OverDrive

きのうまで風邪で寝込んでいた疲れが溜まって抵抗力が落ちたのだろう先週の日曜に仕事で喉を痛めた漢方の選択にしくじり適切な投薬ができなかったたまたま二連休だった木曜に発熱し起きていられなくなった丸二日も眠って過ごしたおかげでほぼ恢復したが小説は予定より二十枚も遅れた寝込む前日に六枚書いていた二連休で残りとさらに二話分を書くはずだった小説が思惑通りに進まぬのはいつものことで問題は日記だ自分にとっては小説こそが重要で日記はどうでもいいどうでもいいが実際に読まれるのは日記なのであってそれは毎日ほぼ欠かさず更新されるからこそおなじみの七八人の常連さん顔が見えるわけでもないしどこのどなたかは存じ上げぬので勝手な妄想ではあるのだがに閲覧してもらえる更新しないとだれも訪れないかもしくはサイトトップや記事一覧にランディングして直帰というなんだきょうも更新されないのかつまらんといった呟きが聞こえてきそうな履歴が残るアクセス解析の閑散としたグラフも寂しいがそれは本来そういうサイトなので構わない貴重な時間を割いて見に来てもらったのにがっかりさせちゃったなと思うほうが読まれぬよりも胸が痛むそんな貴重な読者がひとりでもいるならばあるいはそれは顔見知りかもしれないし地球の裏側の見知らぬ他人かもしれないがだれであろうと構わないそのだれかのために毎日でも個人的な手紙を綴りたい小説とは本来がそうした性質のものだと思う職業としてではなく人間の種類として小説家を考えるようになったのは十四歳の頃だある深夜ラジオのパーソナリティが大勢に語りかけているつもりはないどこか遠くであるいは近くで独りぼっちで耳を傾けるだれかのために仕事をしているひとりひとりのたったひとりとつくる時間が自分の仕事だと話すのを聞いてああそれこそが小説家の仕事で自分のやりたいことだと思った以来三十年だれにも読まれなくとも自分なりにそんなものを書いてきたと思うしepub や WordPress といった手段を得るまで出版されようがなかったのもそのためだしその両方が自分にとってよかったのだと思ういまあなたが読むこの文章は政治家が拡声器で叫んだり芸能人がテレビで歌ったりする声ではないあなたが聴かなければ深夜の空気にただ消えるだけの声だタブを閉じたり別のアプリをひらいたりすればここにあった言葉は忘れられるしかしどこか奥底に消え損なった残滓があってもしかしたら数十年後再結晶してあぶくのように浮かび上がるかもしれないそうならないかもしれない小説はどちらでもいい役に立つものではないのだから役に立たなければ淘汰される世の中でなんの役にも立たぬものでありつづけることでだれかの役に立ちたい小説の言葉は少なくともおれの場合はそういうものでそんな意味では小説よりも時として日記のほうが小説らしい貌を見せたりするのかもしれない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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