1. 跳ぶ死
わたしたちが観測している 『死』 というものを、 生命の終わりとしてではなく意志のある存在として描いた実験的な掌編
東京都江戸川区にある木造アパートから、 『死』 が、 ぽーん、 ぽーんと跳んでいきさまざまな生き物の元を訪れる様子を、 ユーモアを含んだナレーション風の語りで綴っています
2. 空気海苔は有機袋の夢を食うか?
空気海苔がステージに立ち、
空気海苔が居酒屋で打ち上げをし、
空気海苔が野球をし、
空気海苔が囲碁を打つ、
そんな空気海苔が、 埼玉県南部にあるスナック 『ニューかみさま』 に (お供も付けずに!) 訪れた理由とは⋯⋯奇想 /SF を謳うのに相応しい新境地的短編小説
3. 知る人
『未来の学校』 をテーマとした短編小説。 少し先の未来、 校舎が 『学校』 の象徴としてオンライン授業の背景用フリー素材でしか見ることのなくなった世界
人工言語が世界の共通語となり校舎が存在しなくなった世界で 『学校』 がどうなっていくのかを描いた、 これまでで一番 SF に接近した作品
4. 五人めはミルクを入れない
三人の少年がおかしな死に方をした。 一人目は両方の足が右足になって死んでいた。 二人目は本名が 『A』 になって死んでいた。 三人目は真っ白い光に包まれた部屋で死んでいた。 そして全員が凍死だった。
雪女であり殺人犯でもある姉をもつ 『僕』 の、 奇妙でほろ苦い青春譚。
5. 町の脳髄
村や町、 市や県といった人が暮らす場所的な意味での大きな括りというのは、 なんだか生き物みたいだなと思ったことから書かれた掌編
それ自体に意志があるのかも?じゃあ土地と、 そこに暮らす存在とはなんなのだろう?という発想を膨らませていったらできた、 少し不思議な話
6. 鏡子の故郷は虚構の故墟
私立図書館で行われていた絵本の読み聞かせ。 本の世界の中で、 彼は鏡子ちゃんに出会う。 彼女を探すうち、 彼は鏡子ちゃんが 『美しい物語』 にしか現れないことを悟る。 彼は鏡子ちゃんを追うように、 あらゆる小説を読み始めた。
(「鏡子ちゃんに、 美しい世界」 より改題、 改稿)
7. 天使についての試論
北海道胆振地区伊達町に落ちてきた一羽の天使 (正確には 『天使』 と呼ばれる、 これまでの地球上では確認されていなかった生物)。 その生態と、 人類との歴史、 野良天使といった天使と人類との間に起きた問題、 そして 2024 年に起きた例の現象を、 試論という形にまとめた文章。
8. 暴力はすべてを破壊する
下半身露出男と陰部切断女。 本場イタリアで修行を重ねた葬儀屋。 生のドラえもん。 肉宇宙。 かつて人間は腸を裏返したものだった⋯⋯
この奇怪な小説の中で語られることは一つです。 文中で何度も繰り返されるように、 暴力はいけません。 暴力はすべてを破壊するのですから。
9. 函館には続かない道
小学生 3 年生の僕の前に現れたのは、 足の裏を舐めることで人を占うおじさんだった。
伊達町が舞台となった、 限りなく私小説に近い短編小説。 僕は今でもたまに、 あのおじさんの舌の感触を思い出しては奇妙な気持ちになる。
(「函館へ行くのにうってつけの日」 を改題、 改稿)
10. あなたは夜だけの本
冒頭に (Y・Y に捧ぐ) とあるように、 これも実体験をベースにして作られた短編小説。
もう二度と会うことがない人へ向けた小説を書くのは僕のエゴでしかないけれど、 どうしても書かずにはいられなかった作品。 何度も書いては消していたものを、 ようやく形にして発表できました。
本や映画に”なる”っていうのはどういう感じなんだろ。 僕ならまだ誰にも読まれていない本になりたいかなあ。
11. 天使のマーチャン・ダイジング
スーパーの入り口に立つ専用の棒に天使が刺さっており、 それは本日ポイント五倍デーを意味する。 という奇妙な冒頭から始まる掌編小説。
「天使についての試論」 ともゆるい繋がりがあり、 これを書くことで自分のなかの 『天使』 というものが明確になった掌編の代表作
12. 光を飼う
アルバイト先のビルの前にある水たまり。 そこに映る朝の光があまりに綺麗で、 彼女はそれを 『ホゾ』 と名付け両手で掬い自宅に連れて帰った。
彼女の家でどんどん大きくなるホゾ。 いくつかの喪失を経て、 彼女とホゾの関係は決定的に変化してしまう。 ファンタジーを含む、 少し不思議なお話
13. 星に (なって) 願いを
ダンスホールの片隅にてバラバラになってしまったかわいそうな少女パピ子。 パピ子の最後の願いをのせて、 彼女の住む町に小さな流れ星が落ちた。
その瞬間、 願った者たちの元に彼女は静かに現れる。 そして、 さまざまな形でその願いと対峙していく。
14. 四十九パラグラフにも及ぶリロの素晴らしき生涯
小説のなかに切り取られた誰かの人生にはそれ以外の膨大な時間があるはず。 そんな思いから書くことになった 1 パラグラフ=一年の”誰か”の生涯
作品集に入れずずっと単独で存在していたものを、 今回ようやく本作品集のトリに収録できました⋯読んで!
小説家。北海道生まれ。パンと猫と音楽が好き。幻想と怪奇7に短編小説「天使についての試論」掲載。anon pressに「偏在する鳥たちは遍在する」、小説すばる2022年11月号にフラッシュフィクション「合法的トトノイ方ノススメ」掲載。奇想/SF作品集『天使についての試論』(単著)発売中。主に縁起が悪い小説を書いています。