昨年の夏に読んだ。 おもしろいか否かでいえばおもしろいしそれなりに印象にも残った。 人情ものめいた魅力がある。 男性の脇役が活き活きとしている。 女性の描き方はだめ。 生きた人間の感じがしない。 物語の都合とエロのために登場させられただけなのねという感じ。 前半は退屈。 脇役が活躍する後半はそれなりに楽しめる。 私立探偵ものは都市小説であり往々にして文化論的な側面をもつ。 本作もそうなのだが薄っぺら。 チャンドラーのカリフォルニア考みたいな味わいはない。 日本文化の考察はまちがいとまではいえないが微妙。 本作に限ったことではないけれど、 かつてわが国が植民地支配をしていた相手国の娯楽コンテンツに日本文化への言及があると、 好意的であるほど居心地の悪い思いがする。 後ろ暗い歴史がなければ触れられることはなかったろうから。 私立探偵ものはこれも往々にして、 主人公の過去が因縁のように現在の事件にかかわってくるのが読ませどころだったりするけれど、 本作における 「過去の因縁」 は率直にいってつまらない。 高名な文化人のひねくれた自慢にしか感じられない。 取るに足らない些細なしくじりを針小棒大に騒ぎたて、 繊細な芸術家の心が傷ついた、 ああなんてかわいそうな僕ちゃん、 とだれかれ構わずつかまえて大声の嘆きを聞かせようとするかのようだ。 高名な文化人が自分をモデルに娯楽小説を書きました、 といったゴシップ的興味を煽る意図が感じられて興ざめ。 実際にどうかは知らんがその程度の人物造形。 思うに私立探偵ものの主人公は自己愛的であってはならない。 自己愛を断罪する様式だからだ。 だからこそハメットやチャンドラーの探偵は強迫的なふるまいをする。 アル中を認める結末を泣かせどころとする 『八百万の死にざま』 が好きになれないのもおなじ理由だ。 本作はそのあたり主人公に甘い。 共感が必要条件とは思わないが白けさせられては読書は成立しない。 娯楽商品としては成立しているので読んで損したとまでは思わない。 おもしろかった。 それでいいじゃないかといわれたら、 そうだね。 いいと思うよ。
ASIN: B094N3DKQ7
台北プライベートアイ
by: 紀 蔚然
劇作家で大学教授でもある呉誠(ウ―チェン)は若い頃からパニック障害と鬱病に悩まされてきた。
ある日、日頃の鬱憤が爆発して酒席で出席者全員を辛辣に罵倒してしまう。
恥じ入った呉誠は芝居も教職もなげうって台北の裏路地・臥龍街に隠遁し、私立探偵の看板を掲げることに。
だが、にわか仕立ての素人探偵が台北中を震撼させる猟奇事件・六張犂(リュウチャンリ)連続殺人事件に巻き込まれ、警察から犯人と疑われる羽目に陥る。
呉誠は己の冤罪をはらすため、自分の力で真犯人を見つけ出すことを誓う。
監視カメラが路地の隅々まで設置された台北で次々と殺人を行い、あまつさえ呉誠の自宅にまで密かに侵入する謎のシリアルキラー〈六張犂の殺人鬼〉の正体は?
特集: 探偵たち
※価格はこのページが表示された時点での価格であり、変更される場合があります。商品の販売においては、購入の時点で Amazon.co.jp に表示されている価格の情報が適用されます。
読んだ人:杜 昌彦
(2022年02月07日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『台北プライベートアイ』の次にはこれを読め!