D.I.Y.出版日誌

連載第113回: 無差別殺傷事件について

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
02.24Sat

無差別殺傷事件について

公共施設での銃乱射事件において武装した民間人の応戦によって解決した事例はほとんどない全米の教師を武装させれば業者が潤うので子どもたちの生命よりもそちらを選ぶのだろう先日のスクールシューティングでは銃を携行したスクールポリスが常駐していたそうだ校舎外から傍観するだけで何もしなかったとして批判されているその警官を責められないアサルトライフルに短銃で立ち向かうのは不可能だ射程距離も威力も違うでは強力な火器を持っていればよかったのかといえばそうではない学校のような場所では巻き添えの死傷者を増やすばかりだったろう

今回使われた AR-15 は M16 自動小銃からフルオート機構を削除した民間版で日本でも猟銃として合法的に利用できるレシーバー内の部品構成や配置を変えてフルオート用トリガーブロックを組み込めないようにしてある0.223 口径5.56mmで秒速約 3300 フィート約 1000 メートル)。 一般的なグロックの拳銃に比べ銃口速度は約 3 倍有効射程は 1300 フィート約 400 メートル以上でグロックの 160 フィート約 50 メートルを大幅に上回るアメリカ司法省アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局では屋内での使用は禁じられていた威力が強すぎるからだ標的に命中しても貫通しほかの人間を殺傷する畏れがある

クリントン時代に攻撃用武器を禁止する連邦法が定められたがブッシュ時代に失効したフロリダ州では 18 歳以上で犯罪歴がなければ誰でもすぐに AR-15 を買える1989 年に 5 人が死亡29 人以上が負傷したカリフォルニア州ストックトンのスクールシューティングでは AK47 が使われたこの事件によって半自動小銃が民間人にも購入できることが広く知られた以降AR-15 は民間人によく売れているセール品なら五万数千円で買えるスコープや大きな弾倉バンプストックを加えられるので人気があるバンプストックは前後に動く構造のストックで指を固定し反動を利用することで擬似的にフルオートを実現できる連邦法のフルオートの定義はトリガーを一回引いて弾が複数発発射される機能を指すので規制を逃れられるただしカリフォルニア州法では手動か電動かを問わずバースト射撃を可能にする装置すべてが規制されている

銃を規制すれば公共施設での無差別殺傷事件が根絶できるとはいいきれない現に刀狩りの伝統があるわが国でも類似事件はたびたび起きているたとえば歩行者や公共施設に車で突進する手法はおれの街ではじまった現在では世界中で模倣されているソーシャルメディアはこうした暴力を助長する暴力的な投稿を容認して加害者を事件へ至らせたばかりではなく全米ライフル協会の支持者による被害者に対するヘイト行為をも野放しにしているスパム対策や嫌がらせ防止のツールで対処すると twitter 社はコメントしているがこれは何も対策せず助長はしても制限はしないという意味だスパム対策や嫌がらせ防止のツールが実質的に機能しないことは広く知られているそして彼らはそれきり何も事件について触れていない

今回の事件では多くの教員が武装案を拒否し子どもたちが授業をさぼって抗議行動に参加するのを黙認したというそこに希望を感じる


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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