杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第104回: 越える

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
12.18Mon

越える

この四半世紀書いたり出版したりしてきたことでよくやったと思えるのはゴミを絶版にしたことだまた増やす必要はない。 『黒い渦を単体では出版しないことに決めた出すのであれば短編集に収録する印刷版はなし基本的にサイトでの配布とするAmazon にも出す場合はほかのストアで無料で出す改稿に三ヶ月初稿から数えれば二十年かけた仕事が無駄だったと認めるのは楽ではないしかしその落胆よりも客観的な判断ができた嬉しさのほうが大きい少ない読書量ではあってもいい本をそれなりに読んできただめなものを見極めて表に出さない決断ができた苦しんでいた時期にはそれができなかった

承認欲求という言葉にはずっと違和感しかなかったやはり他人にどう思われるかは重要ではない脳の障害をなくしたいだけだと確かめられた生まれつきの欠陥であり一生治らない現実はわかっているせめて努力して改善したい無能のまま賞賛されても嬉しくないそれは客と自分のどちらかが相手を欺いているということだ騙す後ろめたさも憐れまれ施される屈辱も耐えがたい障害さえなくなれば他人の視線などどうでもよくなるいま蔑まれているのは確かに不快ではあるしかし突きつめて考えればやはりどうでもいい優れたひとたちなら優れたひとしか目に入らないわざわざやってきてばかにしたりはしない尊敬できるひとたちだけを見たい向上したい

これまでは両親の問題で精一杯だった病識のない重度の精神障害者を家族に持つのは楽ではない関わりを断って這い上がるのに同じ経験をしたことのないひとにはわからない苦労をしたこの歳になってようやく自分の問題に向き合えるようになった取り返しがつかないほど歪められはしたけれどもおそらくあと二十年は残されている独学でウェブサイトを構築して日記や本の感想を書いた好きが昂じて何冊か本を出した健常者には嘲笑われる愚かしさではあっても日々自分なりに向上している。 『黒い渦を書いていた当時の絶望や惨めさは過去のものだ


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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