D.I.Y.出版日誌

連載第96回: 筋を見出す

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
12.05Tue

筋を見出す

インターネットでは歪んだ幼さが幅をきかせる全体のごく一部ではあっても彼らの声は大きいまたインターネットはその伝播に適しているあたかも彼らの声が絶対の正しさであるかに見える適合しなければだめだ劣っていると思わされる偏っているのは自分のほうだと錯覚させられる

電子書籍は基本的にインターネットを通じて読まれる端末から直接購入するときのように意識しない場合でも実際にはインターネットを経ている従って電子書籍はインターネットにおいて優位な価値観で読まれやすいストアの関連づけがその傾向を強化する

歪んだ幼さは顔の使い分けがうまい他人を貶めてずるく立ち回り自分を立派に見せかける読書とは対極の価値観だ惑わされて別人になろうと努めた読書と自分を貶めただけだったどれだけ幅をきかせていようと合わない価値には従えない媚びてまで彼らの文脈で測られたくない全力で遠ざかりたい

もし読まれたいのなら方法はわかっているまずだれにも恥じない本を書き印刷版と電子版を出版するここまでは努力で叶うと信じているその先は社会的な能力を要する印刷版を友人・知人に配布しもし気に入ったら電子版を購入するよう頼むのだレビューを書いてもらえるとなお嬉しいとも伝える社会的能力さえ秀でていれば本の質は必ずしも問われない

取り巻きのいる著者はインターネットに向いている彼らの価値を取り巻きが高めるようにインターネットはできているその仕組みが金を生むので業者はそのようにウェブサービスを構築する支持者は喜んで電子版に金を五つ星のレビューに手間と時間を投じるそうした操作が出版直後に行われるので目につくように表示され目につくので購入され売れるので目につくように表示され⋯⋯のサイクルに入る

読書の価値は問われないむしろ歪んだ幼さに適している

インターネットに親和性がなく売れることよりも適切に読まれることを求めるのであればいい本を書いていい読者に読まれたいのであれば印刷版が必要だ読書好きの知人に配ればいいストアより現実の関連づけに頼るので時間はかかるが不適切な客筋を遠ざけ望む客筋を得られるしかしいずれにせよおれには才能がなく書いたものは恥でしかないどちらかといえば放っておいていただきたい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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