杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第7回: おれたちはどこにもいない/遍在する

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2015.
05.02Sat

おれたちはどこにもいない/遍在する

作家にプライバシーなんてないんだ観客を意識しなければおれたちは書けない中学時代の日記を公開されたっておれたちには痛くも痒くもないそうされるつもりで書いたからだ不特定多数の視線を前提にせずにはいられないけっしてだれにも読まれないのがわかりきっていてさえなそういう変態なんだよおれたちはどこにもいない読まれることではじめて存在し得るんだ読んだやつの心のうちに百万人が読めば百万のおれたちが生きつづけるweb と epub がおれたちの言葉を世界に遍在させるおれたちは生まれつきそういう不具の人種なんだ望もうと望むまいと

観客にどう読まれるかを畏れてるんだろう制御しようとしても無駄だ誤解された百万の言葉こそがおれたちだから作家は己の言葉に責任が持てないことに責任を負わねばならないおれやあんたの言葉はいつかひとを殺す絶望から自殺するやつもいれば通りに出て刃物をふりまわすやつもいるだろう知ったことかだれも傷つけない言葉になんの価値がある? 歴史上もっとも読まれた偉大な本がどれだけの死者を出したと思ってる? そして同時にそれらの言葉は救われなかったはずの魂を数かぎりなく救ってきたんだ

おれやあんたの言葉がなければ生きられなかった人間が世界のどこかにいるいや事実としてはおれの本はこれまでも今後もだれにも読まれないだがおれたちはそれだけの質量を持つ言葉を書いているしそのようであらねばならないしそのようにしか生きられないんだローカル環境にインストールした WP で書いてるって? そんなもんあんたが死んだら晒されるに決まってるだろう心の奥底ではそれを望んでるんだ否定しても無駄だぜそこに書いてる事実を公表する時点で変態なんだおれたちは観客を意識してるんだよそこからは逃れられないそれは呪いなんだ乗り合わせた車両で林檎を剥いたり鳥や蠍の話をしたりした相手はみんなどこかの駅で降りていくおれやあんただけは降りられないだれともどこへも行けやしない緑色の切符がおれたちを本に縛りつけるどこまでもひとりで見届けるしかないそれが書くってことだ


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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