杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第5回: Bookcamp(著者支援コミュニティ)

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2015.
04.25Sat

Bookcamp(著者支援コミュニティ)

小説にもBandcampのようなサービスが必要だ。ただ結局そういうものをつくっても金の支払いのとこで挫折する。日本のユーザに敷居を低くするには携帯料金といっしょに払える仕組みが必要だ。PayPalは一度登録しようとしたけど感覚的にめんどくさくて挫折した。支払うのにこんなにめんどくさい思い、「あぁおれはばかなのだな」という惨めな思いをさせられるようでは、とても使い物にならない。こんなこと書くと「ぜんぜんむずかしくないよ!」っていわれるに決まってるんだけど、それはあなたの頭がいいからです。

三年くらい通販の仕事やってるけど、客の暮らしぶりによって支払いの好みが分かれるんだよね。歳とって動けないひとは代引がいいし、ばりばり稼いでる自信満々の世代はクレカがいい。コンビニ振込の層はよくわからないんだけど。おれみたいに携帯料金と一緒にするのがいいやつもいるだろうし(クレカ持てないけど携帯料金はあきらめる派)、iTunesカードやAmazonギフト券みたいな前払いを好むやつもいるだろう。若くて貧乏な読書家にリーチするにはどうすればいい? そのためにどんな仕組みをどのように実現できる?「支援」のかたちは金だけにかぎりたくない。だれかに勧めるとか書評を書くとか、そういうのでも支援者としてクレジットされる仕組みがほしい。そこは著者と読者の双方が選べるようにしておきたい。無料から支援を募る(「Name You Price」というのね、さっき知った)か、最初から最低支援額を設定するか、するならいくらにするか、そのあたりも著者が選べるようにしたい。その上で読者は気に入れば余計に支払える。最初から多めにも払えるし追い銭もできる。そのようでなければならない。

BCCKSの惜しいのは「支援」って発想が致命的に欠けてる点だ。「販売・購入」って価値観に固執している。そこから抜け出ないと、単体では何の意味もなさないストア配信ツールに終わるよ(まぁそれでも価値はあるけれど)。支援の場ではなくストアであることに拘泥すれば、Amazonみたいな大手モールにはとてもかなわない。wookはファンという概念があったり、著者による近況報告のタイムラインがあったりと、惜しいとこまで行ってたんだけど、「ファン」はあくまでタイムライン上のフォロー関係でしかなかった。そのタイムラインも意味合いがユーザにまったく理解されなかった。理解されない機能を使うと場違いになっていたたまれなかった。それでますます活用されなかった。wookは度重なる身売りの末、地域ミニコミ誌や商品パンフのウェブ媒体みたいになって存在感を失った。

価値のわからない本をわからないまま買う勇気は、残念ながらおれにすらない。そのための手がかり、文脈が必要であって、多くの著者や読者にとってそれがソーシャル(人脈)なのだろう。しかしそもそもが他人とうまくやれないから読んだり書いたりする人間に、ソーシャルは厄介の元でしかない。そこでまず考えられるのが試し読みだ。漫画や音楽だとお試しのハードルが低いけど小説はそうもいかない。どうするか。おれみたいなばかでも気軽にとっつけるUIがいい。BCCKSの埋め込みビューワは直感的に本と思えるものが手前に出てくるので受け入れやすい。ごめんなさいBiB/iはだめでした。あれは窓のむこうにある巻紙だ。じかに触れないのがもどかしい。ウェブの延長上に本をとりこめるし、自分のサイトに自分の本を置けるので、概念や構造の上ではしっくりくる仕組みなんだけどね。

試し読みよりも有効なのは実況だ。随筆や日記やインタビュー記事を追っていくと、断片的な思考が一冊の本にまとまっていくのがわかる。まとまった作品よりも、そこに至るまでの断片的な思考のほうが受け入れやすい。そこに共感と興味を持てれば作品にも入っていきやすくなる。Bandcamp的な著者支援コミュニティサイトにはそうした機能もあるべきだ。成立過程をリアルタイムで開示し、作家と読者が共有することは、ウェブの時代ならやれるはずなのだ。なのに現状、たとえばtwitterとKDPにばらけている。輪郭が不鮮明になり、ただのソーシャルな販促に終始している。「いかに人脈をつくって売るか」という能力の競い合いだけがそこにある。それじゃだめだ。孤立した一冊の本に収斂していかねばならない。ウェブはそのようなもの(孤独に向き合うもの)としてあることができる。すなわち本になれる。本がウェブになる話、ひらかれたソーシャルになる話ばかり耳にするけれど、ウェブとしての本ではなく本としてのウェブを語らねばならない。話はそこからだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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