海外では KDP からベストセラーが出ているそうだ。 よく読まれている一方で質にかんする疑念もあるという。 「だろうなぁ」 と思った。 アマチュア作品には校正より校閲が必要かもしれない。 校閲ってなると内容に手を入れられるので、 不信感がある著者は多いと思うし、 その気持は正当なものだ。 ほんとうに内容を理解したひとでなければ、 本をだめにしてしまうから。 しかし往々にして著者 (おもにアマチュアの) は自分が書いたものが見えていないもので、 よしあしの判断が真逆だったりする。
そういう意味で第三者の視点は必要なのだけれど⋯⋯これはほんとにむずかしい。 著者以上に校閲者が有能でなければならないから。 それだけの実力者がどれだけいるのかって話になる。 アマチュアを相手にする業者なら、 やはりそれなりだったりしそうだし。
それともうひとつ思うのは、 読者は案外、 質なんて気にしてないんじゃないかってこと。 電子書籍なら素人の本は 99 円くらいで、 安かろう悪かろうが前提の値段だから、 ひどい本がベストセラーになってもおかしくない。
質のちがいがわかるためには、 読者にもそれなりの資質が要求される。 安価な気晴らしや暇つぶしに、 そこまでの厳密さを求めるだろうか。 こちらは仕事や勉強をしたいわけじゃない。 作品のよしあしがわからないからといって責められまい。 科学や法律や医学の知識がないからといって、 地下鉄でスマホをいじる権利くらいはあるだろう。
しかし読者としてはそうであっても、 書き手としてはそれでいいのか。 おれは、 だめだと思う。 なぜだめなのかは自分でもわからない。 読者がわかろうがわかるまいが、 プロだろうがアマチュアだろうが、 ちゃんとしたものを書かなきゃいけないと信じる。 やれるかどうかは別にして。
KDP 日本語版がはじまった当初、 校正・校閲の話題がはやったことがあった。 ものすごく違和感があった。 というのは、 「てにをは」 レベルの話に終始して、 それが作品の価値を決めるかのような説教が流行していたから。 それも大事だけど、 それ以前に考えるべきことがあるんじゃないか。
建物でいえば外装とか内装とかばかり気にして、 そうした上っ面にばかりケチをつけ、 かんじんの土台や構造にはまるで目もくれないみたいなものだ。 結果、 その建物は冷暖房の効率が異様に悪かったり、 強度が不足して倒壊してしまったりする。 そういうことはだれも気に留めないかに思えた。 まぁ 99 円ならそんなもんだろうとも思えるし、 じっさい英語圏での 「セルフパブリッシングのベストセラー」 の実体ってそんなものじゃないかって気がするんだけど、 なんか得体の知れない不安がある。
セルフパブリッシングは表紙をそれっぽくして、 読者をだまして買わせようとする。 擬態だ。 そして奇妙なことに出版社にもひどい表紙や、 タダ同然の投げ売り価格で、 セルフパブリッシングに擬態する動きが見られる。 たぶんコスト削減とか、 そこまでしなければ売れないとか、 いろいろあるんだろうけど。
両者はたがいに接近しつつある。 両者はいずれ完全にまじわるだろう。 その日が訪れたとき、 われわれが読むことのできる本 (の質) はどのようなものだろうか。